社会福祉法人 悠久会では「福祉とSDGsとまちづくり」をテーマに様々な事業やまちづくり活動を行っています。なぜ社会福祉法人がまちづくりに取り組むべきなのでしょうか?
SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを(Sustainable Cities and Communities)」では「まちづくり」についてフォーカスした目標となっています。本記事では、SDGs目標11の定義を解説し、社会福祉法人が取り組むまちづくりについて悠久会の実践事例をもとにご紹介いたします。
SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」とは?
SDGs目標11「住み続けられるまちづくり」とは
「包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する(Make cities and human settlements inclusive,safe, resilient and sustainable)」と表現されます。この目標をキーワードから読み解いた場合、2つのポイントがあります。
- 安全安心
災害対策(※レジリエンス)の充実や犯罪・事故の発生率が低く安全なまち。様々な社会インフラや福祉制度が整っている状態、子どもや女性等に優しいまちで、高齢になっても障害を抱えていても地域から排除されることなく安心して暮らせるまち。 - 包摂性と持続性
多種多様な属性の人やマイノリティの方々も受け入れる文化風土をもつ、まち。過ごしやすい自然環境が整った快適な、まち。地域経済も活性化しており経済的にも持続可能な、まち。
上記2点が整ったまちは、住みやすく暮らしやすい持続可能なまちだと言えるのではないでしょうか。
※強靭(レジリエンス)とは?
自然災害や経済不況等が発生しても、その被害を最小限度に抑えるしなやかさ、柔軟性を持った対応力を発揮し、元の状態に回復・復元する力と定義付けられます。
SDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」を構成する10個のターゲット
11.1 | 2030年までに、全ての人々の、適切、安全かつ安価な住宅及び基本的サービスへのアクセスを確保し、スラムを改善する。 |
11.2 | 2030年までに、脆弱な立場にある人々、女性、子供、障害者及び高齢者のニーズに特に配慮し、公共交通機関の拡大などを通じた交通の安全性改善により、全ての人々に、安全かつ安価で容易に利用できる、持続可能な輸送システムへのアクセスを提供する。 |
11.3 | 2030年までに、包摂的かつ持続可能な都市化を促進し、全ての国々の参加型、包摂的かつ持続可能な人間居住計画・管理の能力を強化する。 |
11.4 | 世界の文化遺産及び自然遺産の保護・保全の努力を強化する。 |
11.5 | 2030年までに、貧困層及び脆弱な立場にある人々の保護に焦点をあてながら、水関連災害などの災害による死者や被災者数を大幅に削減し、世界の国内総生産比で直接的経済損失を大幅に減らす。 |
11.6 | 2030年までに、大気の質及び一般並びにその他の廃棄物の管理に特別な注意を払うことによるものを含め、都市の一人当たりの環境上の悪影響を軽減する。 |
11.7 | 2030年までに、女性、子供、高齢者及び障害者を含め、人々に安全で包摂的かつ利用が容易な緑地や公共スペースへの普遍的アクセスを提供する。 |
11.a | 各国・地域規模の開発計画の強化を通じて、経済、社会、環境面における都市部、都市周辺部及び農村部間の良好なつながりを支援する。 |
11.b | 2020年までに、包含、資源効率、気候変動の緩和と適応、災害に対する強靱さ(レジリエンス)を目指す総合的政策及び計画を導入・実施した都市及び人間居住地の件数を大幅に増加させ、仙台防災枠組2015-2030に沿って、あらゆるレベルでの総合的な災害リスク管理の策定と実施を行う |
11.c | 財政的及び技術的な支援などを通じて、後発開発途上国における現地の資材を用いた、持続可能かつ強靱(レジリエント)な建造物の整備を支援する。 |
社会福祉法人悠久会がSDGs目標11に取り組む理由
社会福祉法人悠久会がSDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」に取り組む理由として、悠久会では「住み慣れた地域で安心して暮らし続けることを支援する」ことを主要な事業テーマとして掲げています。まさにSDGs目標11が目指す方向性と合致しているのです。
社会福祉法人が保有する建物や人的資源、期待される役割及び機能は「安心して暮らせるまち」「福祉のまちづくり」を実現するための地域の重要な社会インフラであり、その果たすべき使命は大きいものなのです。
社会福祉法人悠久会が福祉事業の推進及びSDGsの推進を実現するために「誰もが排除されずに地域で暮らすことができる共生社会の実現」「誰一人取り残さない(No one will be left behind)」まちの実現を果たすにはSDGs目標11に取り組む必要があります。
社会福祉法人悠久会のSDGs目標11の取り組み例
社会福祉法人 悠久会がSDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」を達成するために実際に行っているSDGs取り組み事例を紹介いたします。
SDGs目標11の取り組み事例① ~安全なまちづくり。防災と減災について~
近年、激甚化する自然災害。ここ長崎県島原半島におきましても平成2年に雲仙普賢岳の噴火災害(平成7年に終息宣言)※1が発生したため防災及び減災に対する意識は高いエリアです。社会福祉法人 悠久会におきましても自然災害に対する備えを怠ることなく取り組んでいます。災害対策はハード面とソフト面の双方の対策を取ることが重要です。
- ハード面
障害者支援施設「明けの星寮」は鉄筋コンクリート造で地震災害に強い構造であり、3階建てであるので水害等が発生した際にも垂直避難を実行することができます。過去にも大型の台風が発生した際には近隣町内会長の要請を受け、近隣の高齢者を受け入れる等の地域の避難所としての機能を発揮しています。
また、障害者支援施設「銀の星学園」にでは災害発生時のBCP(事業継続計画)において、停電時にも非常用電源となる「蓄電池設備の導入」により、非常時・被災時に72時間以上の電力供給が可能となっています。 - ソフト面
定期的に総合避難訓練の実施を行っています。減災のためには「公助」のみならず「自助」と「共助」も重要となります。障害者支援施設「若菜寮」の総合避難訓練(①令和2年度 ②令和4年度)等においては、消防署員の方だけではなく、地元消防団員や近隣町内会の方々とも合同で行うことで、「共助」「自助」も実践できるように日頃から避難訓練の実施や災害発生時の連携体制を整えています。
定期的な消防設備の点検の実施や様々な災害発生を想定した避難訓練及び防災減災ネットワークを構築することにより安心のまちづくりに寄与しています。
※1 参考:「雲仙普賢岳の噴火活動による災害」国土交通省 九州地方整備局HP
SDGs目標11の取り組み事例② ~環境面に配慮したまちづくり~
自然環境に配慮したSDGsの取り組みも重要です。街中にゴミが散乱し、水や海が汚染された地域では安心して暮らすこともできないでしょう。環境汚染や海洋プラスチック問題は食の安全性も脅かしかねません。
社会福祉法人 悠久会ではSDGs推進の取り組みとして、定期的な海岸の清掃活動やWorld Cleanup Day及び海ごみゼロウィーク2021に積極的に参画し、地域の自然環境の保全を目指すとともに、当法人のHPやSNS等で積極的に清掃活動を発信することによりゴミ削減及びゴミ投棄防止の啓発活動を行っています。
また、生ゴミから堆肥を作成できる業務用生ごみ処理機(バイオクリーン)を導入を行い、生ゴミから生まれ変わった堆肥を畑の作物作りに活用することによるサーキュラーエコノミーの実現を行っています。そして、生ゴミの焼却によるCO2排出削減にもつながっていることから、島原市が掲げるゼロカーボンシティの実現にも貢献しております。
参考:「島原市と長崎総合科学大学との脱炭素社会構築等に関する連携協定調印式及びゼロカーボンシティ宣言」島原市HP
SDGs目標11の取り組み事例③ ~良好な交通アクセスと安心安全な居住環境~
社会福祉法人 悠久会は島原駅から徒歩5分圏内と利便性の高いエリアに複数の居住施設(グループホームや障害者支援施設)を有しています。自動車を保有していなくても島原市のターミナル駅へである島原駅へアクセスが容易であるため電車やバスで他地域へ移動することも可能です。まちなか福祉の実現によりコンパクトシティ推進への貢献も可能であり、買い物や医療機関への通院の移動によるCO2排出削減と中心市街地活性化に寄与し、持続可能なまちづくりにつながります。
障害を持たれた方が「まちなか」で安心して暮らすための居住環境の整備として、バリアフリー環境が整い、医療面や栄養面も考慮された健康的な生活を送ることができる障害者支援施設や、より小規模な生活環境であるグループホームを居住環境を整えています。そして、日々の生活を安心安全に遅れるように生活支援員等がサポートを行っています。
包摂的な経済活動 ~ディーセントワークの実践~
持続可能なまちづくりのためには「経済・社会・環境のバランスの取れた発展」が必要です。特に地方においては人口減少に関連した地域衰退等の社会課題が表面化していますが、上記の安心安全な福祉のまちづくりと同時に、地域経済の活性化及び魅力あるまちづくりに取り組むことで様々な社会課題の解決に結びつく可能性があります。
社会福祉法人 悠久会では障害者雇用や就労継続支援事業A型及びB型事業を実施することにより、飲食事業や企業からの受託作業、Fab事業(※2)等の多様な働き方を推進しています。障害を持たれた方等の経済活動を通じた社会参画、ディーセントワークの実現を目指すことで、包摂的な経済活動に寄与しています。
(※2 Fab:デジタルデータをレーザーカッター等のデジタル工作機械に読み込ませ商品を作る、デジタルと融合した新たなモノづくりの分野のことです。)
さらに、社会福祉法人悠久会は、SDGsを推進するためのビジョンとして、YDGs目標6「経済好循環を生み出そう」の達成を目指し、地域経済を活性化させ地方創生を実現させるため、地域経済循環率向上に取り組んでいます。(※3)具体的には、「島原むすびす」での地産地消を推進する取り組みや、法人での地元産食材の使用率を高めることを目的とした「地産地消推進プロジェクト」を実施しました。
(※3「YDGs目標6:経済好循環を生み出そう」についてはリンク先の記事にて詳細に解説しておりますのであわせてご覧ください。)
地産地消の推進はSDGs目標11(11.a)と関連しています。その理由として、地元農家との取引が活発化することにより「都市部、都市周辺部及び農村部間の良好なつながり」を生む、社会関係資本(ソーシャルキャピタル)の構築にも寄与できると実感したからです。また、関連して都市と地方がお互いを支え合うネットワークを形成するローカルSDGs(「地域循環共生圏=自立・分散型の持続可能な社会」)の推進にも取り組みます。
参考:「地域循環共生圏をしろう」環境省HP
まとめ ~福祉とまちづくりとSDGsを実現するために~
本記事では主にSDGs目標11「住み続けられるまちづくりを」のテーマに絞り込んで解説してきましたが、社会福祉法人悠久会が実践する、まちづくり活動を十分には語り尽くせておりませんので、次の機会に「SDGsと福祉とまちづくり」をテーマとした記事を執筆できればと思っています。(※1)
広い意味での「まちづくり」とは、地域住民や関係者と協力(パートナーシップ)のもと、地域の社会課題や生活課題を解決し、住みやすいまちをつくることを指すものかと思います。
また、福祉のまちづくりの観点からは、社会的に弱い立場にある人々も安全で安心な生活を送れるよう、複雑化かつ多様化した福祉課題に対応できるように、福祉の専門職が提供する福祉サービスだけでなく、インフォーマルな社会資源を活用することで、地域コミュニティの活性化やつながりの再構築、つまり社会関係資本(ソーシャルキャピタル)の充実を図ることが重要です。これにより、誰もが取り残されることのない「住み続けられるまち」「共生社会の実現」を目指せるでしょう。