働き方や価値観が多様化する現在、どのようにキャリア積んでいくか、キャリアアップやスキルアップをしていくか、悩んでいる人は多いのではないでしょうか?特に大学や専門学校、高校の卒業を控え就職活動を行っている方々、未経験からの介護業界・福祉業界へのキャリアチェンジ(転職)を考えている方々は介護業界・福祉業界でのキャリアデザインをどう描くかのイメージがついていない方も多いと思います。
今回の記事では、なぜ自らのキャリアを考えるキャリアデザインが必要なのか、まずは介護業界・福祉業界だけに限定せず、広く一般的なキャリアについての考え方や定義をわかりやすく簡単に説明できればと思います。
■本記事の対象者 ~キャリアについて学びたい方(福祉分野以外の方にもおすすめです)~
- 介護業界及び福祉業界以外の方
一般的なキャリアについて知りたい方(福祉学生ではない方や一般企業へ就職を考えている方も対象です) - 介護職・福祉職の方で今後どのようにキャリアを積むべきか悩んでいる方
介護職・福祉職でキャリアについて知りたい方、キャリアデザインに興味のある方、介護・福祉業界に就職を考えている学生さんや介護・福祉の未経験者
キャリアデザインを行うメリットやキャリアデザインを行わないデメリットなども含め説明できればと思います。
キャリアの定義及びキャリアアップについて
まずは、キャリアの定義やキャリアの概念等の基礎用語について簡単に説明していきたいと思います。
キャリアの定義
「キャリア」の定義を考える上で、厚生労働省の定義を参考にすると
キャリアとは、一般に「経歴」「経験」「発展」さらには、「関連した職務の連鎖」等と表現され、時間的持続性ないし継続性を持った概念
「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書より 厚生労働省職業能力開発局(2002年7月31日)
キャリアとは何か?
「キャリア(career)」の語源はラテン語の「車道」を起源とし、英語では競技場のコース等を示したりします。
個人が働く中で、進む道筋や職業歴を示し、個人の成長と自己実現を達成するための道のり全体を示しています。
キャリアをわかりやすく説明しますと、広義では「生き方」等のライフスタイルをも含み「人生キャリア(life career)」と広く捉えます。狭義では職務経験、職業選択(就職・転職等)必要なスキルや能力の獲得等、職業生活を中心とした「職業キャリア(professional career)」と示し、使い分けることもあります。
- 客観的キャリア
職務経歴(職務上の実績、転職歴・異動履歴等)資格及びスキル等の客観的事実に基づく経歴。 - 主観的キャリア
個人の仕事に対する価値観を中心としたもの。例えば、どのような仕事にやりがいを感じるかなど、人によって異なる回答が得られるもの。
キャリアを考える目的を簡単に説明すると「仕事を含めた豊かな人生を送る」ためにどうするべきか?を考えることだと思います。人生は仕事が全てではありませんが、人生の多くの時間を仕事に使うため「豊かな職業生活を送ること」=「人生を豊かにすること」にプラスの影響をもたらします。
人生を考える上で、また、仕事をする上で「何に価値を感じるか?何に比重を置こうとしているか?」は人それぞれです。社会貢献に価値を置く人、社会課題の解決に価値を置く人、仕事を通して人と関わることに価値を置く人、金銭報酬を得ることに比重を置く人など、様々なキャリアの価値観があります。
お金を稼ぐことをキャリアの目的にしてもよいのか?
キャリアビジョンを定めるとなると、何やら崇高な志や目的をもって仕事をしなければいけないと考えてしまいがちですが、お金を稼ぐことを中心に価値を置くことも問題はありません。「お金を稼ぐ=社会から必要とされる価値を提供している」とも言えますので、法令を順守し、他者に高付加価値のサービスを提供したり、社会へポジティブなインパクトを与えた結果、得るべき報酬を得ることは資本主義経済下では健全な活動です。
真に「豊かなキャリア」を考えるうえでは様々な価値を考慮する必要性があるということ
近年はSDGsの推進で語られるように「経済・社会・環境」のバランスの取れた持続的なビジネスの在り方を模索することが世界でも求められていますので、多額の金銭報酬を得られるからとの理由で、自然環境へ悪影響を与えたり、極端な格差や不平等を生むようなビジネスは各方面から批判やバッシングを受けることとなるでしょう。資本主義経済下では「豊かさ」=「経済的価値」に比重を置きがちですが、価値観の多様化と持続可能な世界・ビジネスの実現のためには「豊かさ」とは「経済的価値」のみではなく、経済的価値以外の様々な価値も含めて模索することが必要だと思います。
(社会福祉法人悠久会では積極的にSDGs を推進しています。興味のある方は下記の記事をご覧ください。)
キャリアアップとは何か?
キャリア関係の話題となると多く話題にあがる言葉として「キャリアアップ」があります。キャリアアップとは「キャリア」をアップすることを意味していると受け取れそうです。しかしキャリアをアップした状態とはどのような状態でしょうか?逆にキャリアがダウンした状態とはどんな状態を意味しているのでしょうか?
キャリアアップのイメージについて
「キャリアアップ」についての一般的なイメージとしては簡単に一言で説明すると「職業能力を向上させて、役職や地位を向上させて収入をアップさせること」と表現できるかと思います。具体的には業務上必要とされる知識や技術を得てスキルアップし、会社から求められる成果を上げて、社内で出世をし、役職に就き、マネジメントに携わり部下をもったり、自身の裁量を広げたりというマネジメント職としてのキャリアアップ。また、近年は専門職志向の高まりから、マネジメント職には就かず、専門性を深めて社会的に市場価値を高めるといった専門職としてのスキルアップを行うという状態が一般的なイメージかもしれません。
価値観が多様化する時代でのキャリアアップとは?
しかし、キャリアの説明として「豊かな人生を送る」ことや、経済的価値以外の多様な価値や尺度を持つ時代であることからキャリアアップについても一般的なイメージが全ての人に当てはまるとは限りません。昭和的価値観に基づけば「いい大学に入って、大企業に入社し、出世競争を勝ち抜いて役職を上げて、収入を上げることが幸せなことである」と親や先生から言われて勉強を頑張ったり、有名な企業への入社を目指して、競争率の激しい就職活動を頑張ってきた人も多かったのではないでしょうか。これが、過去においては標準的なキャリアアップのイメージでした。しかし、近年は高学歴であったり、高い職業能力を保有しているにも関わらず、上記のようなキャリアを選択せずに、社会課題の解決を目指す小規模なベンチャー企業を選択する人もいることから、必ずしも有名企業に入社することや、役職やスキルを上げて高収入を実現することが万人に共通するキャリアアップと断言することができなさそうです。
トータルリワード(総合的報酬)
価値観が多様化する時代では、まさにキャリアも多様化する時代であるとも言えそうです。何をもって「豊かなキャリア」「キャリアアップ」とするかは、その人の人生や仕事の価値観次第で変化します。
近年「トータルリワード(総合的報酬)」といった金銭的報酬のみでキャリアの選択を判断するのではなく、非金銭的報酬(やりがい、成長環境、仕事の面白さ、ワークライフバランス等)といった、総合的な報酬でキャリアの満足度を判断するといった考え方もあります。
価値観が多様化する時代でのスキルアップの必要性は?
豊かなキャリアをどう判断するかは人それぞれと述べてもきました。しかし、金銭的報酬を重視しないからといってスキルアップが不要だという結論を持つのはキャリアデザイン上、危険かもしれません。同じ仕事を定年退職まで継続できればよいですが、これまでの歴史を振り返っても技術の進歩により消えた職業(電話交換手、エレベーターガール、植字工等)もあります。キャリアは多様であるとはいえ、安定したキャリアを望んでいる場合は、AIによる技術進歩の新たな波が押し寄せてきている時代に現状維持思考(スキルアップをしない等)は安定かつ継続したキャリアを送るうえではリスクとなり得ます。スキルアップを積極的に行うことで成果を発揮し、社内外からの信頼と評価が高まることで安定したキャリアをつかむことができますし、将来的にキャリアチェンジ(転職等)が必要となった場合、選択肢が広がることでしょう。内面的にもやりがいや自己成長を実感できるという効果もあります。金銭的報酬や地位向上を求めないキャリアを選択したからといって何も努力しなくていいと結論付けるのではなく、将来的な時代の変化や職場の状況を踏まえて、柔軟に考えるとよいと思います。
キャリアデザイン、キャリアプラン、キャリア形成、キャリアパスとは
「キャリア」に関する用語の中に「キャリアデザイン」「キャリアプラン」「キャリア形成」「キャリアパス」等の複数の用語があります。これらの違いについて理解するため、それぞれの用語を簡単に説明させていただければと思います。
キャリアデザインとは?その定義について
「キャリアデザイン」とは、将来の仕事やキャリアについて自分自身が主体性を持って考え、計画-実行していくことです。
自分の価値観や動機(ニーズ)・能力を考慮し、自分の理想とする未来の姿を描き出すプロセスです。キャリアデザインを描く際には、仕事面のみを考慮するのではなく、自分の人生及びライフスタイルを含めて考えることが豊かなキャリアを実現するために必要となります。
人生を豊かにするためのキャリアデザイン
自分の人生を豊かにするために、会社任せ(依存)ではなく自律的にキャリアデザインをすることが必要です。なぜならば、人生を含めた自身の価値観はあなた自身の内面にしか答えがありません。ゆえに、会社はキャリアをデザインする支援までは可能ですが、自分が理想とするキャリアは自身で導き出す必要があります。100人いれば100通りのキャリアデザインがあり、求めるキャリア次第では現在、所属する会社では理想とするキャリアデザインを達成できない可能性もあるかもしれません。その場合はキャリアチェンジも視野に入れなければならないかもしれません。自身の内面やこれまでの人生の中で培ってきた価値観や理想とする未来を実現するための実行可能なキャリアデザインを描いてみましょう。
キャリアプランとは?その定義について
「キャリアプラン」とは、キャリアデザインで描いた理想とする人生の目的を達成するための具体的な行動計画です。
理想とする働き方や、自分の目指す職業や業界、必要な知識及び技術をどう習得していくか?必要な資格や業務経験は何か?等のキャリアの理想と現状のギャップを分析しつつ、どのような戦略と行動をもってギャップを埋めていくか?を考えます。
自分が求めるキャリア実現のためには、必要となるスキルの獲得や達成するべき目標、積んでおくべき経験等の具体的な行動計画が必要となります。漫然とした長期計画を立てて終わりではなく、1年後、3年後・10年後等のキャリアのステップなどを明確にし、達成に向けて具体的な行動を起こし、評価検証、必要に応じて適宜見直しが必要となります。
短期的なキャリアプランと中長期的なキャリアプラン両方を作成する必要がありますが、短期的なキャリアプラン作成においては現実的に達成可能な目標なのか?短期目標を着実に達成すれば中長期目標の達成に確実に近づくのか?等のペース配分にも着目しましょう。作成したら終わりではなく、キャリアプランは必ず実行し、定期的に評価検証することが必要です。会社の事業目標の方向転換や社会のニーズの変化や技術の進歩により当初の想定と異なる状況も起こり得るため、定期的なキャリアプランの見直しも必要です。また、実際に様々な職業経験を積んだり、他者の影響を受けたり、視野を広げる経験したり、自分自身の職業適性を客観的に振り返ることで、できることに気づいたり、本当にやりたいことに気づいたりすることもあります。ゆえに、初期のキャリアデザインに固執するだけではなく、外部環境や自身の価値観の変化も踏まえ、キャリアプランには変更可能性があることも織り込みつつ、臨機応変かつ柔軟に考えましょう。
キャリア形成とは?その定義について
「キャリア形成」とは、厚生労働省の報告書によると下記のように述べられています。
①「キャリア形成」とは、このような「キャリア」の概念を前提として、個人が職業能力を作り上げていくこと、すなわち、「関連した職務経験の連鎖を通して職業能力を形成していくこと」
「キャリア形成を支援する労働市場政策研究会」報告書より 厚生労働省職業能力開発局(2002年7月31日)
②「キャリア形成」のプロセスを、個人の側から観ると、動機、価値観、能力を自ら問いながら、職業を通して自己実現を図っていくプロセスとして考えられる。
「キャリア形成」はプロセスと結果を含む
理想とするキャリアを築く(形成)ためのプロセスや、キャリアプランの実践による結果(必要な知識・スキル等を身につけたか等)である、キャリアを積むプロセスとキャリアを積んだ結果の両方を含むものであると考えられます。
「キャリア形成」のために個人で取り組むべきこと。
上記の厚生労働省の報告書からも、従業員個人としてキャリア形成のために取り組むべきこととして、客観的キャリアと主観的キャリアを振り返りながら、自分自身でキャリアの方向性を見いだすことも「キャリア形成」に含まれていますので、自ら主体性をもってキャリア形成に取り組むといった「キャリア自律」が重要であると言えます。
キャリア形成のためのSDS(Self Development System:自己啓発援助制度)
介護業界・福祉業界でのキャリア形成(一般企業とも共通点も多いです)の例として、人材育成(研修手法)の代表的な手法としてOJT(On-the-Job Training)とOff-JT(Off the Job Training)がありますが、自主的なキャリア形成支援の手法としてSDS(Self Development System:自己啓発援助制度)もあります。
SDSの定義は「職場内外での職員の自主的な自己啓発活動を職場として認知し、時間面、経済面での援助や施設の提供」であり、例として、資格取得等の支援や自主勉強会等のグループ活動等の個人のキャリア形成のニーズに応じた必要な援助を職場が行います。SDSは自らキャリアを形成していくという動機付けを行う効果的な取り組みです。
参考:OJT(On-the-Job Training)とOff-JT(Off the Job Training)について
- OJTとは
職場内で行われる人材育成手法のひとつで、職場の上司や先輩が部下や後輩に対し具体的な仕事を通じて、仕事に必要な知識・技術・技能・態度などを指導教育することです。 - Off-JTとは
職場や通常の業務を離れての教育研修や訓練等。外部への研修参加等、体系的に知識やスキルを学べたり外部の専門家からの教育研修を受けることができる。
参考:「教育制度(業務と習熟に必要な業務教育の内容)」(PDF形式)厚生労働省資料より
キャリアパスとは?その定義について
「キャリアパス」とは、英訳ではCareer path(キャリアを積む道)とされ、具体的には職業生活上で進むことが期待されるキャリアの進路や方向性を示すものです。会社等の自身が所属する組織内において、目指す役職やポジションや職種等の希望する仕事に従事するためには、どのような知識やスキルが求められるのか、求められる資格の有無、必要とされる業務経験等を示したものとなります。
キャリアパスを示すメリット
キャリアパスを示すメリットとしては、社内での昇進基準や条件の明確化により、理想とするキャリア実現のために具体的に何を行う必要があるのかを社員に示すことができます。そして、社員はキャリアパスを指針としながら、具体的なキャリアプランの作成及びプランの実行によるキャリア形成が可能となります。
なぜキャリアデザインが必要なのか?キャリアデザインに取り組むべき理由
多様な考え方が尊重される時代の中で、なぜキャリアデザインが求められるのでしょうか?キャリアをデザインする必要性とは何なのか?そのメリットやデメリットを含め、解説していきたいと思います。
キャリアデザインを考えるべき理由① ~日本の雇用環境の変化~
定年延長等、働く期間が伸びつつある(長い人は50年以上)ことで、企業の寿命より個人の労働期間の方が長くなりつつあります。新卒で入社し、一つの会社で定年まで勤めあげるという終身雇用や年功序列制度の崩壊等の日本全体の雇用環境の変化があります。
- 新規大卒者の離職率は3年以内に30%超、倒産企業の平均寿命は23.8年(企業の平均年齢は34年)
一昔前はハローワーク等に通って転職先を見つけなければいけませんでしたが、近年は様々な転職支援サービス等の充実により転職支援の充実と終身雇用の崩壊等や人手不足等の社会全体の雇用環境の変化も要因なのか、新規大卒者の就職後3年以内の離職率は32.3%(令和2年度3月卒業者)と、新卒者の3人に1人は3年以内に転職をする時代に。潜在的に転職を考えている層を含めると半数を超えるのではないでしょうか?
また、倒産企業の平均寿命は約24年と仮に新卒で入社した会社が40代中盤で倒産する可能性もあります。比較的、大企業は倒産する可能性は低いかもしれませんが、早期退職者募集やリストラ、M&Aにより吸収合併し社内環境が大幅に変わる可能性は十分にあります。
参考:新規学卒就職者の離職状況(令和2年3月卒業者)/厚生労働省
参考:全国157万社の“平均年齢(業歴)”は 34.1年 最長は製造業の42.1年、最短は情報通信業の23.1年 ~
2021年「企業の平均年齢」調査 ~ /(株)東京商工リサーチ
キャリアデザインを考えるべき理由② ~VUCA時代のキャリアを考える~
人生100年時代及びVUCA(※)の時代を迎えるにあたり、リスキリング(学び直し)が重要とも言われていることから中長期のキャリアについて自ら考える必要性が増してきたこと。
- ※VUCAとは
「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」の現在はAI(人工知能)の発展やDX等の短期間でのビジネスモデルの変化等の世界情勢や社会変動等の予測が困難な状態を示しているという言葉です。
働く人の一人一人が社会の変化や組織の変化に積極的に対応する主体的なキャリアデザインが必要となりました。これからは会社のみに依存しないキャリアを形成することも重要です。
キャリアデザインを考えるべき理由③ ~セルフ・キャリアドックの推進~
そもそも労働者の努力義務であること。
労働者は自ら職業生活設計(キャリアデザイン)を行い、これに即して自発的に職業能力開発に努める立場にあること。
職業能力開発促進法(2016年4月1日改正)
この改正職業能力開発促進法により、労働者自らのキャリアデザイン形成を求めるとともに、企業にもそのキャリア形成支援の提供を求めることとなりました。その流れの中で、個人が活き活きと働くことで活力あふれた組織になる活動としてセルフ・キャリアドックを位置づけ実践の指針が示されています。
セルフ・キャリアドッグとは?その定義について
企業がその人材育成ビジョン・方針に基づき、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、体系的・定期的に従業員の支援を実施し、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する総合的な取組み、また、そのための企業内の「仕組み」
「セルフ・キャリア導入」の方針と展開(PDF形式)/厚生労働省/2017年12月
セルフ・キャリアドックの導入効果について
(1)セルフ・キャリアドックの導入の効果(従業員・企業)
- 従業員側のメリット
主体的な能力開発により仕事を通じた継続的な成長と働くことの満足度が向上します。 - 企業側のメリット
組織活性化や生産性向上の寄与が見込まれます。
セルフ・キャリアドックの導入効果として、上記のように従業員及び企業双方にメリットがあることが述べられています。
(2)セルフ・キャリアドックの導入の効果(属性別)
- 新卒採用者:離職率の低下等の定着率向上
- 育児・介護休業者:職場復帰率の向上
- 中堅職員:モチベーションの維持や向上
- シニア職員:生涯キャリアの設計の支援
上記のように、新卒採用者のリアリティショックについての対応やライフキャリア変更等のキャリアの節目の際に支援を行うことで安心して復帰できる環境の提供や、スキルの棚卸しの機会、自己のキャリアを振り返る機会を意図的に用意し、モチベーション向上につなげることができたりする効果が期待できます。
セルフ・キャリアドックの標準的プロセス
①人材育成ビジョン・方針の明確化
②セルフキャリアドック実施計画の策定
③企業内インフラの整備
④セルフキャリアドックの実施
⑤フォローアップ
セルフ・キャリアドックにおける取り組み
キャリア研修の実施
集合研修方式により、自身のキャリア開発に関するビジョン、目標の設定やアクションプラン策定を行えるよう、経験やスキルの棚おろしやキャリア形成上の課題への気付きを促したり、キャリアの一定段階(年数や属性)を迎える従業員に対しキャリアプランの策定の見直しを考える等の取り組みを行います。
キャリア形成支援
キャリア形成のためには「自己理解」という主観的な理解と「職務理解」という客観性を踏まえた理解が必要となります。
- 自己理解:職業生活上の自身の強みや価値観を知ること。
- 職務理解:職務分析や期待及び要請されている役割理解を客観的に把握すること。
キャリア形成のポイントとして、自分自身の職業人生における主観的価値を振り返るとともに、外部環境の変化や経営戦略の変化によって企業内での役割が変化する可能性を理解しておく必要があります。
そして、自身のキャリアを主観的かつ客観的に理解したのちに、自らが理想とするキャリアビジョンを描き、ビジョンを実現するためのキャリア目標立案とアクションプラン作成支援を行います。
キャリアコンサルティング面談の実施
支援対象となる従業員の属性とキャリア形成上の課題に応じてキャリアコンサルティング面談を実施し、フォローアップも含め支援を行います。
セルフ・キャリアドックの継続的改善
セルフ・キャリアドックではキャリアデザインを1回作成して終わりということではなく、定期的なモニタリングを実施しキャリア意識の変化や仕事ぶりの変化を確認していく必要があります。企業や従業員ともに時代の変化を見据えつつ、柔軟かつ継続的な取り組みが求められます。Win-Winなキャリアデザインを描き、キャリア形成を行うことで、企業や従業員、組織が活性化し、より良い未来が実現できるかもしれません。
キャリアデザインを考える上での大学生のインターンシップ等(学生のキャリア形成支援)
学生のキャリア形成支援の一環としてインターンシップの推進が期待されています。実際の職業生活キャリアのスタート前の期間であるインターンシップはどのようなメリットがあるのでしょうか?簡単に説明していきたいと思います。
インターンシップのメリットとは?
インターンシップのメリットは実際に就職を考えている企業の仕事を実際に体験し、職業生活のイメージを高めたり、求められるスキル等を学生生活初期に把握することによって、大学で何を学ぶと就職後に役に立つか等の把握ができることにより、勉強に身が入る等のメリットがあるかと思われます。
インターンシップとは?その定義について
インターンシップとは
学生が、その仕事に就く能力が自らに備わっているかどうか(自らがその仕事で通用するかどうか)を見極めることを目的に、自らの専攻を含む関心分野や将来のキャリアに関連した就業体験(企業の実務を体験すること)を行う活動
参考:「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方(概要PDF)」(文部科学省・厚生労働省・経済産業省の三省合意)2022年6月13日
上記「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」2023年度(学部3年生~対象)より大学生等のインターンシップの定義が変更され、4つのタイプに分類されることになりました。
(1)「インターンシップ」の名称が使用できない:就業体験を必須とせず「個別の会社や業界の情報提供等」や「教育が目的」
- タイプ1:オープンカンパニー
- タイプ2:キャリア教育
(2)「インターンシップ」の名称を使用できる:就業体験が必須「自身の能力の見極め」や「評価材料の取得」が目的
- タイプ3:汎用的能力・専門活用型インターンシップ
- タイプ4:高度専門型インターンシップ
タイプ3及びタイプ4がインターンシップの名称を使用することができます。「就業体験を伴う」「一定の日数以上の就業体験の期間」が必要です。汎用的能力活用型は短期(5日間以上)、専門活用型は長期(2週間以上)とインターンシップの呼称を使用するには、最低でも5日間の期間を設定することが必要です。
インターンシップによる新卒者のリアリティショックの緩和
本記事内「キャリアデザインを考えるべき理由①」で新卒学生の3年以内離職率が30%を超えるという話題を取り上げましたが、その原因の一つとして入社時に思い描いていた理想の職業生活と現実の仕事においてギャップが生じている、いわゆる新入社員のリアリティショックがあるかもしれません。旧来の短期間インターンシップ(タイプ1:オープンカンパニー)では企業の人事・広報担当者も自社のアピールポイントを中心に語り、入社してからの苦労や実態等を正しく伝えていなかった現状があったかもしれません。
新類系によるタイプ3以上のインターンシップは5日間以上及び就業体験が必須となりましたので、学生の方はうまくインターンシップを活用することでリアリティショックによる早期離職(せっかくの新卒カードを失ってしまう)ことを防げるかもしれません。
社会福祉法人悠久会ではインターンシップの参加者を募集しています
社会福祉法人悠久会では、福祉の現場と実態を深く知ってもらう「5日間型のインターンシッププログラム」を用意しています。また5日間の参加はできないけれども福祉のことを知りたい学生さんに向けて「タイプ1:オープンカンパニー」「タイプ2:キャリア教育」も随時、受け入れを行っています。介護業界・福祉業界に就職を考えていなくても「福祉を知りたい」という一般企業志望の学生さんでも参加は可能となっていますし、介護分野に限らず飲食(カフェ等)事業を体験できるプログラム、SDGsや、まちづくりを学べるプログラムも用意していますのでお気軽にお問い合わせください。(興味のあります方は下記の募集ページをご覧ください。)
社会福祉法人悠久会のインターンシップ等の受け入れ事例
社会福祉法人悠久会では過去にもインターンシップを開催してまいりました。実際のプログラムや参加者の声を知りたい方は、下記のページをご覧ください。インターンの様子も動画(Youtube:6分)にまとめていますので雰囲気をつかめると思います。(※当時の名称のまま「インターン」の名称を用いています。現在の定義では「タイプ2:キャリア教育」のプログラムとなります。)
まとめ:キャリアをどう積んでいくか ~キャリアプランの実践に向けて~
これまでの記事の中で厚生労働省等の資料を参考に、キャリアの定義やキャリアデザインの必要性を述べてまいりました。まとめとして私見も踏まえ、キャリアについて検討するべきことを解説してまいります。
仕事の意義について考える
同じ仕事を行う場合でも、個人の価値観や取り組み姿勢により、キャリア形成に大きな違いをもたらすことがあります。イソップ寓話の「3人のレンガ職人」の話のように、同じ仕事をしていてもビジョンや価値観に基づく仕事への取り組み姿勢によって中長期的にキャリアに違いをもたらす可能性を示唆しています。また、豊臣秀吉は織田信長の草履取りのエピソードをきっかけに、結果として出世を遂げた話も有名なものです。また、有名なものとして小林一三氏の下記の名言があります。
下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。 そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ。
小林一三(阪神阪急グループの創業者)
仕事の意義を考えながら目的意識を持って創意工夫したり、必要なスキルを身につける努力することで、1日2日と短期間では差がつかなくても、3年後や10年後には、それぞれの社員のキャリアに大きな違いをもたらすかもしれません。
キャリアの進め方 ~キャリアの「筏下り」-「山登り」モデル~
これから就職活動を行う人や新卒者等に向けたキャリアの進め方のモデルを一つ紹介させていただきます。
このモデルでは、若い時やキャリア形成初期の頃は、ゴールのみに価値を置くのではなく、筏(いかだ)下りのように急流の川を下るかのごとく、懸命に目の前の仕事に全力で取り組むプロセス(社会人としての基礎力を高める)に価値を置くことが重要であることを示しています。
キャリアデザインにおいて、理想とするキャリア=ゴールを描くべきこと重要です。しかし、ゴールや目標を決めたにせよ、キャリアの初期から、ゴールばかりを見て、筏下りの最中に、目の前の岩に気づかず転覆してしまった・・・と、ならないように気をつけねばなりません。
筏下りのモデルにおいては、ある程度、キャリアの川を進んだ後は陸上に降り立ち、自分の専門領域を選択し、その山をひたすら登っていく(自分の足で進んでいく)という「専門性を高めるフェーズ」に移行するという考え方を示したモデルとなります。キャリア初期の段階において、目の前の仕事に懸命に取り組むことなしに理想とするキャリア形成は難しいということを示しているでしょう。
「Will・Can・Must」のフレームワークについて
キャリアについて理解を深める上で「Will・Can・Must」という考え方があります。
「Will(やりたいこと)・Can(できること)・Must(やるべきこと)」の重なりが大きいほど仕事の満足度が高く、従業員が活躍している状態と言われています。
- Will(やりたいこと):自分が実現したいこと
- Can(できること):強みの発揮や成果を上げることができる仕事
- Must(やるべきこと):会社から求められている役割や業務
キャリアについては個人に焦点が向きやすいですが、会社が掲げるミッションやビジョンに従業員が共感し、やりがいを持って職務に取り組むことで相乗効果が生まれる可能性もあります。個人が掲げるキャリアの方向性と会社が目指すビジョンが一致していることで、理想とするキャリア形成にあたり会社の支援や上司のサポートを受けやすくなるでしょう。
個人のキャリアと会社のビジョンの一致による相乗効果を得るためには、就職・転職の際の企業選びも重要で、自身の描くキャリアと親和性のある理念やビジョンを掲げている企業を選択することが個人のキャリア形成にとってプラスになる可能性が高いと思います。
企業と個人がWin-Winの関係であること
自らの理想とするキャリアをつかみ取るためには、従業員自身が個人としてキャリアアップを果たすことで「企業に○○といったメリットをもたらします」等と企業側にもメリットを実感できる提案を行い、実行して成果を上げ、企業や上司・同僚等の信頼を得ることも大事ではないでしょうか。そのことが、キャリア形成において遠回りなようで実は近道であるかもしれません。
自分の「やりたいこと」興味本位だけの仕事に取り組むだけでは、おそらく人事評価で低評価となる可能性もあります。しかし、「やるべきこと」のみに注力し過ぎると、自身の強みを活かせていない状態であるため、成果を発揮できず、やらされ感が強い仕事の進め方となりモチベーションダウンとなるかもしれません。「やりたいこと」や「やるべきこと」どちらか一方に偏ることなく、Will-Can-Mustのバランスが肝心であると思います。
Will(やりたいこと)のみに偏るとどうなるか?
Will(やりたいこと)のみに偏ることのデメリットとして、ケーススタディ(たとえ話)として、設計士(又は工務店)に新築の家を依頼するケースで説明したいと思います。
- 受注側:設計士(工務店)=従業員
- 発注側:建て主(施主)=企業
という設定とします。
建て主:「木造で温かみのある家に住みたい」
設計士:「今まで木造で設計してましたけど、今、鉄筋コンクリート造の家を研究しているので、鉄筋コンクリートで家を設計させてください(施工経験はありません)」
結果、初めての設計ということもあり失敗し(低品質の成果物を納品)、建て主が結果に不満を持っていたとします。しかも、失敗したのに正規の料金+α(初めての仕事で工数が増え、料金上乗せ)だったとしたら、建て主(企業側)は次回家を建てる時にこの設計士(従業員)に仕事を頼んだり、他の人に紹介するでしょうか?
極端な例え話かもしれませんが、Will(やりたいこと)のみに注力するということは、このような状況と同じかもしれません。相互にWin-Winとなる関係が対等であり健全な関係かと思われます。他者からプロとして、報酬を得るには、他者への貢献、報酬と見合った適切な成果物の納品等が必要であることは言うまでもありません。
また、逆に建て主(企業側)が理想とする生活像や、こんなライフスタイルなので、こんな部屋がほしい等の要望を言わず、「設計士さんにお任せしますので、なんとなくいい感じにして」(曖昧すぎる指示)では、思ったものと違う家ができた場合に不満を言いにくいかと思います(明らかな瑕疵がある場合は別ですが・・・)
発注側:建て主側(企業側)が受注側:設計士(工務店)に、その業者の強みを把握せずに無茶な要求要望を行う場合はMust(やるべきこと)のみを一方的に求めたケースと言えるかもしれません。
実際の取引場面では発注側(企業側)が受注側(業者等)に仕様書を提示するようにキャリアデザインの支援においては企業側が「求める理想の人材像」「キャリアパスの提示」をするとよいかもしれません。
そもそも実務の場面ではミーティングを行ったり、要求要望を相互にすり合わせたりするコミュニケーションを行うものかと思います。
キャリアデザインのために、キャリアプランの作成やキャリアコンサルティング面談で企業側と従業員側がしっかりとコミュニケーションを取ることが必要です。そもそも「伝えなければ伝わらない」「伝えたようで伝わっていない」というのはよくある話です。よりよいキャリア形成のためには双方向コミュニケーションを行っていきたいものです。
計画的偶発性理論からキャリアデザインを考える
計画的偶発性理論とは
個人のキャリアの8割は予期せぬ偶然の出来事で決定される。その偶然を計画的に設計し、自身のキャリアに良い影響を与えていく
ジョン・D・クランボルツ
この「計画的偶発性理論」はキャリアを考えていくうえで、オープンマインドで予期せぬ偶然の出来事に柔軟に受けとめることも重要であることを示唆した理論です。自ら主体的に取り組むキャリアデザインが重要だと述べてまいりましたが、社会変動や顧客ニーズの変化の予測が難しいVUCAの時代に、綿密に計画したキャリアデザイン通りにキャリアプラン及びキャリア形成が進むとは限りません。思った通りにキャリアが進まなかったといって悲観的になることなく、偶発的な出来事を前向きにとらえつつ、柔軟にキャリアを形成していくとよいと思います。
また、偶発的な出来事をキャリア形成に活かすための、必要な要素として「好奇心」「継続性」「楽観性」「柔軟性」「冒険心」が重要だとも述べられています。
そもそも、様々な職務経験及び人生経験を積むうちに、人は考え方が変わるものですし、実は苦手だと思い込んでいた分野で職務適性及びやりがいを見出すこともあります。職業生活の初期に描いたキャリアデザインが実現しなかったから「キャリアの失敗だ」と決めつけず、視野を広げて柔軟に変化を楽しみ、偶然にもチャンスをつかみ活かした結果、ふと振り返った時に、「仕事を含む自分の人生は豊かだった」と思うことができたならば、満足するキャリアを掴めたとも言えるでしょう。
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