ふくしCAMP 2024春 開催レポート ~「福祉」と「地域」を知り、社会課題の解決策を考える3日間~

はじめに

 社会福祉法人悠久会では、大学生や高校生のインターンシップを受け入れています。今回は、株式会社musbun・金城学院大学との協働により、ふくしCAMPを実施いたしました。令和5年度より改正されたインターンシップの概念に基づくと、今回のプログラムは、タイプ2キャリア教育に該当します。本記事では、今回のふくしCAMPの趣旨やプログラム内容、学生の感想等をレポートします。福祉業界のインターンシップ等に関心のある方の参考になれば幸いです。

ふくしCAMPとは? ~福祉インターンシップの目的~

実施の経緯、目的

 今回は先に述べたように、社会福祉法人悠久会と株式会社musbun金城学院大学の協働により、インターンシップ(タイプ2 キャリア教育)を開催いたしました。
 悠久会では日頃より、新卒採用に向けて学生にとって有意義なインターンシッププログラムの構築を検討しています。そんななか、以前もインターンシップの運営でお世話になった、福祉の人材不足の解決、魅力発信に取り組む株式会社musbunと、愛知県名古屋市の金城学院大学 橋川健祐准教授とで、大学生が福祉施設でのインターンシップを通して成長できる機会を創出したいという想いが共有され、悠久会にもお声がけいただき、今回協働事業としてインターンシップの実施に至りました。
 3者で打ち合わせを重ね、musbunには、企画と当日の運営を、金城学院大学には、参加者募集の声かけ、当日の学生のサポートをお手伝いいただきました。

 大学生がインターンシップ等に参加する動機として、まず、事業所見学等を通して福祉の現場や地域の困り事を知りたいこと。そして、他者と議論し、何が課題なのかを明確にして、解決策を考える、広くは福祉の専門知識や実態を知るだけでなく、人と話す力、聴く力、課題解決力、企画する力を身につけたいというニーズもあるようです。それが、自身の成長・挑戦の機会になるという期待もあります。
 そこで、事業所見学に加え、フィールドワークも行い、悠久会の福祉やまちづくりの取り組み、福祉を取り巻く地域環境を知ったうえで、地域課題・福祉課題を導き出し、それを解決するプロセスを学ぶようなプログラムを企画しました。

テーマ:「地域にひらかれた福祉」を考える

 今回プログラムのテーマを「地域にひらかれた福祉」に設定しました。その背景を少し説明します。

【悠久会の目指す姿】

 悠久会においては、「全ての人々の心が通い合う心豊かな社会の実現」というビジョンのもと「福祉とまちづくりとSDGs」を掲げ、就労支援事業を中心に、地域経済・地域社会に寄与するべく事業に取り組んでいます。言い換えれば、地域共生社会を築くことがゴールです。

【現状と課題 ~福祉施設と地域の垣根をなくす~】

 ただし、障がいのある方が地域の方と直接的なつながりをもって共生できているとは言い難いのが現状です。下の図は、悠久会が提唱している「福祉×SDGs×まちづくり」の背景として、障がいのある方を取り巻く地域の現状・課題、障がいのある方も豊かに暮らしていける地域福祉のあり方を示した図です。そもそも、地域のなかでは、障がいのある方とそうでない方が交わる機会が少なく、お互いを知る、理解するには壁が存在してしまっています。その壁は社会的孤立を生み、心身の不健康、貧困の連鎖を引き起こしてしまうこともあります。そのため、他者との関わりや地域の活動への参画によって、心の豊かさが向上し、自身の存在価値を感じられる、そのような共生社会を築いていきたいと考えています。まずは、いつのまにか福祉の制度やあり方によりつくられてしまった壁を取り除くことが課題というわけです。

参考:障がい者と地域を取り巻く現状・課題(社会福祉法人悠久会「福祉×SDGs×まちづくり」小冊子より)

 そこで、だれもが安心して住み続けられる地域社会を実現するために、福祉施設が地域に向けてどのようにひらくことができるのか?悠久会の福祉施設と地域のつながりを増やすにはどのようなアプローチが可能か?そのような問いについて、一緒になって考えるプログラムを企画しました。学生の方にとっても、福祉施設内の福祉だけでなく、広く地域福祉を考えるきっかけになるのではないかと考えました。
 具体的には、施設見学や職員へのヒアリング、利用者さんとの交流に加え、地域に住む人々が障がいのある方や福祉施設に対してどのような印象を持っているか等を調べるためにフィールドワークを行い、それらを踏まえて課題解決策を提案するという内容となりました。

ふくしCAMPの概要

【日程】

 2024年3月11日~13日(2泊3日)

【対象・参加者】

 金城学院大学の講義等で広く告知して頂き、コミュニティ福祉学科3名(2年生2名、1年生1名)に、環境デザイン学科1名(1年生)、国際情報学科1名(1年生)と、幅広い分野の学生(計5名)の応募がありました。また、金城学院大学から橋川健祐准教授、関西学院大学(元金城学院大学)の柴田学准教授にもご参加いただきました。

ふくしCAMPの内容 ~福祉インターンシップのプログラム内容~

事前勉強会

 今回、3日間のプログラムをより充実させるために、事前にオンラインにて勉強会を行いました。
 参加学生の自己紹介を伺った後、悠久会からは永代秀顕理事長より、悠久会の概要、ビジョン、「福祉×まちづくり×SDGs」の取り組みを説明した上で、テーマである「地域にひらかれた福祉」の背景、また島原半島の魅力をお伝えしました。

 金城学院大学の橋川健祐准教授からは、2日目に行うフィールドワークとは何か、また注意すべきポイント、視点などをレクチャーいただきました。事前勉強会は、当日に向けて様々な知識を吸収できたほか、参加者同士顔を合わせ、プログラムの目的や目標を共有する時間にもなりました。

  橋川健祐准教授「フィールドワークとは」スライドより

ふくしCAMP当日

 2泊3日のスケジュールはこのような行程となっています。

【1日目】

■ 昼食:島原むすびす「風光明媚火山弁当」
 参加者の皆さんは早朝の出発となりましたが、途中、日本一海に近い駅と言われている「大三東駅」などにも立ち寄ったそうで、道中も楽しみながらお越しいただきました。はじめに、昼食として、島原むすびすの「風光明媚火山弁当」を提供しました。地域おこし協力隊と協働開発した「火山弁当」をリッチにしたものです。お品書きのほか、担当者からも直接、お弁当に込められた想いやこだわりの食材について説明し、味わっていただきました。

■ ガイダンス
 参加学生から、改めて自己紹介とインターンシップへの意気込みなどを話してもらいました。また理事長からは、事前勉強会で伝えきれなかった内容や、学生から寄せられた質問に応える形でガイダンスを行いました。

施設見学
 はじめに、障害者支援施設 明けの星寮を見学。施設内の設備や利用者さんの様子を見ながら、利用者さんの1日の過ごし方や1人ひとりにあわせた居室の工夫などを聞きました。利用者さんとの交流の時間では、学生がはじめはどう話しかければ良いのか戸惑う様子もみられましたが、職員のサポートのもと少しずつコミュニケーションを図っていきました。その後、職員より現在行っている地域交流の取り組みをご紹介。ガイダンスから会場として使っていた地域交流室の役割や課題についても考える時間となりました。

 次に、1日目夕方から2日目午前中の時間を使って、就労継続支援B型・生活介護の機能をもつきらり作業所へ。島原市指定ごみ袋の製袋や3Dウッドターニングマシンを活用した木工、かんざらし製造など、作業の様子を見学しました。担当者からは、作業内容や流れの説明のほか、作業を通して地域へ貢献することの意義についても話がありました。利用者さんが、担当している仕事内容を自ら教えてくれる場面もあり、学生らは、利用者さん一人ひとりが責任感をもって働く様子に驚いていました。

夕食:交流会
 当初の予定では、当法人の就労継続支援B型事業所である山の上のカフェGardenにて、BBQを実施するつもりでしたが、雨天により変更し、島原市万町アーケードにあるカフェ・コワーキングスペース・ホテルの複合施設 水脈mioにて交流会を行いました。支配人のご厚意で、施設内の見学もさせてもらいました。ざっくばらんな話から、職員より福祉の仕事の面白さ、やりがいが語られる場面も。充実した交流の時間となりました。

【2日目】

フィールドワーク
 きらり作業所の見学の後、Aチーム・Bチームに分かれ、島原中心市街地のフィールドワークへ。島原城や商店街などを練り歩き、島原の地域性を紐解きながら、福祉を取り巻く地域の環境を観察しました。また、商店街や観光施設をはじめとするお店の方などに、障がいのある方や福祉施設に対する印象、悠久会の活動の認知度についてヒアリングを行いました。

 その間、Bチームは、就労継続支援B型花ぞのパン工房の外販活動に同行。販売先にて、パンの購入者(市民の方)へのインタビューをしたほか、外販活動に参加していた利用者さんに日々のお仕事についても尋ねました。

グループワーク
 2日目午後からは、チームごとに翌日の企画発表に向け、「悠久会の福祉施設と地域のつながりを増やすには」というテーマに対して悠久会の現状を整理し、何が課題なのか、それをどう解決するか、アイデアを出し合いました。途中、悠久会の職員も議論に参画し、取り組みの現状や理想と現実との間にある葛藤などを話しながら、これからの悠久会に必要な取り組みを考えました。

【3日目】

企画発表
 最終日は、2チームからそれぞれ企画発表を行いました。

 Aチームは、まず、地域の理想像として「まち全体が家族のような関係性」を掲げました。災害時も含めて日常から困ったときに頼れる関係性があり、知っている場所や人が多く安心して暮らせる地域であれば、障がいのある方も活き活きと生きていけるのではないか、ということです。現状としては、福祉事業所と地域の方との間で、間接的な関わりはある一方で、直接的な関わりが少ないことから、段階的に福祉に触れる機会を提供するべきだと考え、はじめは学校給食で島原むすびすの弁当を出すなど、福祉事業所を知るきっかけをつくり、かんざらしづくり体験など体験・交流の場を設け距離を縮める。さらには、市民がボランティアとして支援の一部に関われるサークルの運営を通して、最終的には継続した関わりがもてるような仕組みづくりを考えると良いのではないか、という提案をいただきました。

 Bチームは、福祉事業所の存在を地域の方にも広く知っていただき、地域の人も気軽に立ち寄れる通いの場となることを目指して、作業終了後などの空いている時間の施設活用を提案しました。いきなり利用者さんと接するのはハードルが高いことから、事業所に来たいと思う動機付けとして新たな魅力をつくり、場所から興味をもってもらうという案です。例えば、3Dウッドターニングマシンを活用した木工体験や飲食部門の調理場をシェアキッチンとして貸し出し、パンづくり教室、子ども食堂を開催するなどです。活動を継続的に行うことで、地域の方に知っていただくとともに、事業所の利用者さんにとって、”いつもここにくる●●さん”が、困ったときに頼れる存在となり、家族や支援員以外の地域の方とも関係性が創造されていく、そのような仕掛けを描いてくれました。

フィードバック
 それぞれの発表の後は悠久会職員からコメント、そして橋川准教授・柴田准教授・永代理事長から総評を伝えました。改めて、我々職員自身が、利用者さんと地域とを繋ぐ架け橋である、ということを再認識する時間となりました。地域との関わり方にも、間接・直接、日常・非日常と様々な形があり、悠久会として、どのような関係性を目指していくのか、利用者さん1人ひとりのウェルビーイングを考えたときにどのような形が望ましいのか、より深く議論していく必要性を感じました。ご提案いただいた視点やアイデアをもとに、日々の支援や取り組みを見直していきたいと思います。

記念撮影
 最後に、銀の星学園前のアートパネル(みんなのフェスでの制作物)を背にして、記念写真を撮りました。

ふくしCAMPを終えて ~福祉インターンシッププログラムで得られる学び~

 学生の皆さんからいただいた、感想等をご紹介します。

インターンシップへの参加動機

  • 福祉に興味があり、色々な施設を見たい
  • インターンシップの経験がしたかったから
  • 地域に行って現地の人と話す経験がしたかった
  • プログラム内容に興味をもった

 今回は1、2年生と、インターンシップへの参加がはじめての方も多かったですが、皆さんに共通する想いとして、挑戦してみたいという気持ちがあったように感じました。

インターンシップへの満足度

  • 満足度は100%
  • 印象に残っているプログラムは、施設見学:40%、フィールドワーク:60%

 その理由として、以下の内容が挙げられています。

  • 障害者の就労支援事業所の様子を実際に見学、入所施設の設備の見学を行って、自分が持っていたイメージと異なった点があったから
  • 最初の思っていたイメージが車椅子の方や寝たきりの方が多いのかなとおもったら、全然そんなことはなく皆さん元気に歩いていたから。 あまり施設内を見れる機会がなかったから
  • 福祉のことについてより深く知ることができたことと地域の人の優しさを知ることができたことが理由です
  • 初めて訪れた地域を散策する経験を初めてしたため

 障がい福祉の施設へのイメージが変わった!という嬉しい感想をいただきました。机上での学びだけでは分からないインターンシップならではの気づきを得られたのではないかと思います。フィールドワークも、様々な刺激に触れる時間となったようです。

感想・学んだこと

  • インターンを通して、福祉について深く学ぶことができた。それによって、視野が広くなったかなと思いました。 様々な学年の方と意見を交わすことができたので、こんな意見もあるんだなと思うことがたくさんありました。 すごく楽しく学ぶことができたので、次回も参加してみたいと感じました。
  • 挨拶をしたら利用者さんの方が話しかけてくださったり、やはり挨拶って当たり前のことだけど大切なんだなと思いました。言葉で言った方が相手に伝わるし、自分も良い気持ちになりました。また、お互いに支えあっていかないと何かあった時に助けることができないし、どう接していいのかわからないことだらけだなと思いました。
  • 自分の持つ目的によって、得られる学びは全く異なってくるのだと感じた。また、施設や作業所などを訪れた際には、授業を受けるだけでは分からない現場の雰囲気やそこで働いている職員の方の様子などを知ることができた。
  • 今回このインターンに参加することで、障害者自身と地域の繋がりや関わりがとても大切なことが分かった。
  • 利用者さんとの関わり方や、グループワーク等で意見交換を行うことの大切さ。

 福祉の現場も地域も、単に見学するだけでなく、実際に職員や利用者さん、地域の方々と話をしたり、時間をかけて議論をしたりしたことで、障がい福祉の仕事の魅力や様々な福祉課題・地域課題に気づいていただけたのではないかと思います。また、今回の参加者は1~2年生でしたので、福祉の現場に触れて、今後のキャリア選択の参考になっていれば嬉しく思います。

まとめ

福祉インターンシッププログラムがもたらすもの

 このふくしCAMPを通して、参加された学生それぞれに学びがあったようですが、机上では分からない施設のリアルを感じ、障がい福祉の面白さや奥深さ、意外な一面などに触れていただけたのではと思います。また、1人ひとりの利用者さんの暮らし方・働き方から、福祉施設と地域住民との関係性というように、様々な視点、視座で福祉を考えるきっかけになっていれば幸いです。

 また、このプログラムをきっかけに、島原という地方に来て、悠久会の職員や地域のお店の方、住民の方と関わり合いながら、福祉について深く考えたことで、これからどのような地域で何を仕事としていきたいか、ということを考える上で少しでも参考になっていればと思います。未来像が見えてくれば、今大学で学ぶべきことや身につけるべき力が明確になり、学びがより深いものになるでしょう。ふくしCAMPへの参画が、そのようにして長期的に今後のキャリア選択に繋がっていければと思います。

ふくしCAMPの運営を通して

 フィールドワークにあたっては、商店街や観光施設をはじめとするお店の方々に、インタビュー等ご協力いただき、大変お世話になりました。悠久会、福祉施設から一歩外に出て、地域の方々から話を伺ったことにより、多角的な視点で島原の地域性を捉えることができたかと思います。本当にありがとうございました。

 また、今回はじめて大学と協働してインターンシップを行いましたが、インターンシップをはじめとした未来の福祉人材の育成や、大学の知見を活かした福祉課題・地域課題の解決など、様々な観点で大学との連携・協働の必要性を実感しました。今後も繋がりを継続し、その輪を広げ、地域福祉を推進していきたいと思います。

 ふくしCAMP運営全体を通しては、悠久会側の準備・対応において様々な課題も見受けられました。前回から引き続きmusbunの方に企画や運営、その他様々なサポートを行ってもらいましたが、今後はこうした課題解決型プログラムの運営力を磨き、悠久会単独でも実施できるよう努めていきます。

悠久会のインターンシップに関心のある方へ

 悠久会のインターンシップでは、応募される方のご希望に合わせて、例えば生活支援員・相談支援員・職業指導員・バックオフィス業務(総務・会計・広報等)といった希望職種や見学したい事業所、興味関心のあるテーマ(福祉のほか、SDGsやまちづくりも含め)などを考慮して、見学・体験のプログラムを組んでいます。大学1年生から気軽にご参加が可能ですので、ご興味のある方はぜひご相談ください!

【参考】

 過去に募集・開催したインターンシップの内容や様子はこちらからご覧ください。

2024春 インターンシップ・1DAYオープンカンパニー
 25卒向けで、締切も過ぎていますが、直近ではこのようなプログラムを企画・募集していました。

ふくしCAMP 2023春 ちいここ合宿 in長崎
 テーマや参画団体等が異なりますが、昨年度実施したふくしCAMPのレポート記事・動画になります。

Sustainable Development Goals

悠久会は、持続可能な開発目標(SDGs)を推進しています。

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この記事を書いた人

悠久会 広報の人

長崎県の島原半島で福祉事業を展開している社会福祉法人です。SDGsの推進及び「福祉×まちづくり」をビジョンに掲げ、福祉課題と社会課題の同時解決を目指しています。
#社会福祉法人 #sdgs #障害福祉 #保育 #まちづくり
「全ての人々の心通いあう社会の実現」「ウェルビーイングの向上」を目指します。