社会福祉法人 悠久会では、法人で利用する食材をなるべく地元産のものにする取り組みをおこなっています。
令和4年度に、その取り組みの一環として、地産地消コーディネーター派遣事業に応募しました。
地産地消コーディネーターの派遣事業とは、学校等施設給食の現場にて地場産物の利用拡大や定着を目指し、農林水産省が行っている事業です。地産地消の取組に詳しい専門家を派遣し、食材の供給体制づくりをはじめとした給食の現場が抱える課題解決を目指します。
県産食材の使用率を上げるため、地産地消コーディネーターのアドバイスを受けました。活動の一貫として、利用者さん向けの給食にて、長崎県産物100%のメニューの提供を開始しました。年度末に行われた令和4年度の地産地消活動報告会では、当法人における県産食材の使用率を上げる活動について報告しています。
当法人内で活動の中心となったのが、各入所施設に所属する栄養士の皆さんです。
栄養士の皆さんは、地産地消コーディネーターの方からアドバイスを受けた他に、実際に畑や直売所に足を運ぶなど、当プロジェクトの中心となって活動しました。
今回は、社会福祉法人 悠久会の栄養士である吉永さんに、長崎県産物100%のメニューの提供にあたって苦労した点や、その後の取り組み状況など、詳しくお話をお聞きしました。
地産地消コーディネーター派遣事業を通して
地産地消コーディネーター派遣事業を利用して、悠久会では2月に長崎県産物100%のメニューを考案し、試食会を実施後、実際に施設で提供しました。
参照:地産地消の取組 その3
長崎県産物100%のメニューのなかで、もっともこだわった点は何ですか?
「一番こだわったのは、おでんの出汁も地元産にしたことです。今までは、だしパックを利用していましたが、今回は島原の昆布をメインで出汁に利用しました。実は昆布の他に『しまばら鶏』も出汁に入っているんです」
具材だけでなく、出汁も島原産食材にし、地元産に徹底的にこだわった吉永さん。
他にも、おでんに長崎の郷土料理も入れてみたそうです。
「おでんには『龍眼(りゅうがん)』という具材も入っています。ゆで卵の周りにピンク色のすり身を付けて揚げたもので、長崎ではおでんに入れることが多くて、縁起物として食べられます。卵ではなくて、龍眼にしたのはこだわりですね」
地元産食材を味わうだけではなく、長崎の文化も学べるメニューになっていたそうです。利用者さんたちも、見慣れない具材に驚いたことでしょう。
地場産食材給食を実現するうえで困ったことは?
「日頃よく使う食材の地元産が見つからなくて困りました。特に県内産のしめじを探すのに苦労しましたね。来週使おうと思っても入荷がないときもあって、諦めて他の九州産の食材を使ったり、県内産が見つかっても状態が良くなかったりしましたね」冷凍野菜や県外産を避けた分、食材確保に苦労したこともあったそうです。
取り組みにあたって、地産地消コーディネーターの方とは、どのくらいやり取りをされましたか?
「地産地消コーディネーターの方は、島原に3回来訪されてミーティングをしました。遠方から日帰りでいらっしゃったときもありましたね。メールやLINEでも連絡を取り合っていました。今でも、その後も提供した地産地消メニューや、取り組みを見せ合いっことかしています」
地産地消コーディネーターの方と情報交換を重ねた吉永さん。派遣事業終了後も近況報告を続けていると楽しそうに語ってくれました。
悠久会には、『銀の星学園』と『明けの星寮』と『若菜寮』の3つの障がい者入所施設があります。それぞれに、担当の栄養士が居ますが、長崎県産物100%のメニューの考案のため、月1回ミーティングを重ねているそうです。
「みんなでアイディアを出し合う時間は楽しい」と吉永さん。他の栄養士の方々も、この取り組みを楽しまれていて「今こんな野菜が直売所で売っています!」と、吉永さんの元に報告が来ることもあるそうです。次はどんなメニューが生まれるのかご期待ください。
長崎県産物100%のメニューを提供し始めてから変わったこと
第一回の長崎県産物100%のメニューを試食会で披露し、地域の新聞やケーブルテレビに取り上げられると、周囲からの反応に変化があったそうです。
「取り組みを公表してから、テレビで見たよ!とか話しかけてもらえることが増えました。特に食材のことで、声をかけてもらえることが増えましたね。利用者さんが通われている畑や、職員の知り合いで野菜を作ってる方から、分けていただいたこともありました」
また、継続して取引できる直売所や農家さんを探していたところ、農家さんから野菜を作ってるので見に来てください、と声をかけていただいたこともあったそうです。公表してから協力してくれる方が増えたと、嬉しそうに語っていました。
具体的にどのような食材をいただきましたか?
「職員の知り合いの農家さんから野菜をいただいたり、ワカメがいっぱい採れたからドサっともらったりしました。
他にも素麺屋さんから『ふしめん』をいただいたのでサラダにして、給食で提供しました」『ふしめん』とは、そうめんを竿にかけて干したときに折れ曲がる部分のことです。素麺工場が多くある島原半島では、素麺屋や土産屋にて袋いっぱいに入ったふしめんが販売されています。野菜やドレッシングとの相性も抜群です。
他にも、地場産給食に取り組むようになってから、私生活でも変化があった吉永さん。
「日頃から畑を見るようになりました。直売所にもよく行くようになりましたね」
直売所で旬の野菜をチェックして、「次はこの野菜を使ってみたい」と考えることが増えたそうです。今までは特別に意識することがなかった畑も、季節の野菜は何か、どこまで育っているかと、気にするようになったそうです。
また、家族と一緒にそのような場所にも出かけるようになったと吉永さん。
「休日には直売所併設のレストランに、子どもを連れて行ったこともあります」
地元産の新鮮な食材の良さに気付くと、子どもにも知って欲しくなりますよね。お子さんも地元産や旬の食材に詳しくなることでしょう。
「お店に行くと、野菜の盛り付けの仕方とか、味付けとか勉強になります」と、吉永さん。
次の長崎県産物100%のメニューの制作に向けて、日々勉強を重ねています。
長崎県産物100%のメニューはこれまで3回実施
その後も、長崎県産物100%のメニューの給食を3回提供したという吉永さん。
提供されたメニューは以下の通りです。
5月:雲仙ハム入り手延べスパゲッティ、花ぞのパン工房のパン、ヤングコーンのサラダ、チキンとズッキーニのスープ、島原むすびすの杏仁豆腐
6月:とうもろこしご飯、メンチカツ、そうめんふしサラダ、山の上ガーデンのケーキ
9月:もみじ豚丼 温泉卵のせ、宮田さんちの冬瓜と秋野菜の煮物、秋の具だくさん味噌汁、島原むすびすの梨のゼリー
吉永さんは給食のメニューを考案するときに、利用者さんの意見も積極的に取り入れているそうです。
「利用者さんにアンケートをとったら『肉が食べたい』という意見が多かったんです。それで、9月は『もみじ豚丼』にしました」なるべく利用者さんが食べたいメニューを提供したい、という吉永さんの愛を感じました。利用者さんたちも、希望のメニューが食べられてさぞ嬉しかったでしょう。
さらに、地元産食材を入手するために、野菜の収穫体験もしたそうです。
「とうもろこしご飯を提供したときは、朝からとうもろこしの収穫体験もしました。収穫したとうもろこしは、『いろは保育園』の子どもたちに皮むき体験もしてもらいましたね」
採れたてとうもろこしは、生のままでもとても甘かったそうです。悠久会の運営する保育園の子どもたちにも、食育を併せて実施ができました。
今回、利用者さんにも地産地消メニュー内容が分かるように、イラストでのメニュー表も作成してもらったそう。
「試作の時点で写真を撮って、出すメニューとちょっとした食材紹介を写真やイラストで紹介しています。みんなが通る廊下の掲示板に貼っていると、これ何?とか聞かれるようになりました」
少しでもメニューの内容を理解してもらえるように、さまざまな工夫をされています。
他にも、地元産の食材のなかでも、利用者さんがなるべく食べやすいものを提供するように気をつけているそうです。5月に提供したメニューの手延べスパゲッティは、南島原市で生産されており、通常のパスタより細くて食べやすいのが特徴です。
また、昼食時には利用者と積極的に会話をされるそうです。
「食事の時は必ず見に行きます。食べていなかったら『何で食べてないの?』とか聞くようにしていますね」
実際に食べているところを見るようにしています。利用者さんから『苦手だった』と言われたものは、次の献立に反映するようにしていますね」
また、食材と味に徹底的にこだわった吉永さん。6月に提供したメンチカツは、しまばら鶏と雲仙もみじ豚をミックスして入れたそうです。一緒に島原産の野菜を細かくして沢山入れたそうです。どんな味になったか気になります。
地元産の魚や、郷土料理を出してみたい(今後の展望)
今後の長崎県産物100%のメニューで提供したい食材はありますか?
「地元産の魚を使用したメニューも提供してみたいですね。魚の入荷状況が当日にならないと分からなかったり、骨を取ってもらう必要があったりして、まだ実現できていないです」島原市は有明海に面しているので、旬の魚のメニューも利用者さんに食べていただきたいですね。
「他にも、直売所で見つけた珍しい野菜や在来種野菜を使ったり、果物を使ったりしたいですね。地元産のシャインマスカットを発見したので、そのうち出してみたいです」島原では果物も多く生産されています。デザートで出てきたら嬉しいですね。隣の雲仙市では、多くの在来種野菜が栽培されています。『雲仙こぶ高菜』や『雲仙赤紫大根』、『黒田五寸人参』など多くの品種があるので、こちらも利用者さんに、ぜひ食べてもらいたいですね。
郷土料理も提供してみたい
「次は12月に地場産給食を提供する予定ですが、郷土料理も入れたいですね。今考えているのは、『ろくべえ』や『とらまき』です。『ろくべえ』は昔、給食で出していたらしいので、復活させるのも面白いかなと」
『ろくべえ』は、サツマイモの粉とつなぎに山芋を使用して、うどん状にしたものです。見た目は太い蕎麦に似ていますが、味はほんのり甘いのが特徴です。江戸時代に島原半島が食糧危機に見舞われた際に、主食にしていたサツマイモを利用して、六兵衛という人が考え出したとされています。やわらかいので、利用者の方でも食べやすいでしょう。
参照:島原市ホームページ
『とらまき』とは、ザラメでコーティングしたカステラ生地の中に、あんこが詰まっているお菓子です。島原周辺の和菓子屋さんを中心に販売されています。デザートにちょうど良いですね。
また、地産地消コーディネーターの方とお話ししているうちに、吉永さんはあることに気付きます。
「昔は、今みたいに冷凍食品とか便利な商品も無かったし、物流も発達していなかったから、基本は地産地消だったんですよね」たしかに、昔は地元で採れたものを食べるしかなかったから、人々は自然と地産地消の生活をしていたのでしょう。近場で生産された食材を使用すれば、地元企業や生産者の活性化や、運搬するためのエネルギーを減らせるため、CO2削減にも繋がります。今の時代こそ、食に関しては原点回帰するべきかもしれません。
他にも、あるもので保存が効いて美味しいものを…と生み出されたのが郷土料理です。郷土料理の歴史を辿れば、その土地で育てやすい食材や、気候も理解できるでしょう。『ろくべえ』が生まれた背景のように、江戸時代に飢饉があったという歴史も分かります。郷土料理をメニューで提供すれば、歴史と地理も学ぶきっかけになるかもしれません。
12月の長崎県産物100%のメニュー提供に向けて、日々準備を進める吉永さん。今後の活動にもご注目ください。
最後に ~地産地消とSDGsの関係性について
地産地消を進めることで、SDGsが掲げる17の目標のいくつか達成することもできます。地域で消費する分のみ生産すれば、目標14「海の豊かさを守ろう」と目標15「陸の豊かさも守ろう」という2つの目標達成に繋がります。
また、食物の運搬には、多くのエネルギーが消費されCO2が発生しますが、地元で消費をすれば、SDGsの目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や目標13「気候変動に具体的な対策を」の達成にも近づけるかもしれません。
悠久会では、地元生産者の活性化とSDGsのゴール達成に向け、今後も地産地消の取り組みを継続していく方針です。
今回地産地消コーディネーターを派遣して実施した、利用者の方に提供する給食の食材を、なるべく地元産の食材を利用する取り組みの他に、『就労継続支援事業所 おむすびカフェ 島原むすびす』における、地元産食材のこだわったおむすびとお弁当の提供を続けていきます。
今後の続報や新しい取り組みは、ブログにてお知らせします。
SDGs
目標 7 エネルギーをみんなに そしてクリーンに
目標13 気候変動に具体的な対策を
目標14 海の豊かさを守ろう
目標15 陸の豊かさも守ろう