はじめに
10月29日(日)、山の上のカフェGardenにて、「みんなのフェス」と障がい者アートイベントを開催いたしました。イベントのご報告と、今回のイベントの趣旨である障がいのある方の文化芸術活動の可能性や意義について、振り返りたいと思います。
イベント趣旨 -みんなのフェスとは?
障がいのある方の文化芸術活動を推進する意義や、悠久会における現在の取り組みについては障がい者の文化芸術活動の推進と先進事例の視察レポートにて紹介しましたが、今回のイベントは、「障がいの有無に関係なく、絵を描いたり音楽を演奏したりと、誰もが芸術をともに楽しめる垣根のない場をつくること」「障がいがあっても、自分の表現したものを誰かに認められ、喜びを感じられるような社会参画の機会をつくること」「より多くの支援者や一般の方々に、障がいのある方の自由で豊かな感性、芸術的センスに気づいてもらい、障がい者アートや音楽の輪を広げること」を実現する一つの機会になればという想いで開催しました。
これらは、想いはあっても、日々の支援のなかではなかなか取り組めていないことでした。というのも、気軽に表現する機会がなかったり、普段の余暇活動のなかで何気なく生まれた作品も事業所内で飾るだけだったり…これらは、当法人に限らず他の法人も抱えている課題であり、今回思い切って、長崎県の障害者芸術文化の発表の機会確保事業を活用し、本イベントの企画・運営に挑戦してみました。
上記の意図から、当法人だけではなく、社会福祉法人コスモス会、社会福祉法人ほかにわ共和国、株式会社リハビリテーションケアにもご協力いただき、本イベントを開催することができました。
「障害者芸術文化の発表の機会確保事業」とは?
この事業は、事業所内でのアート活動を外部に広く公開する取り組み(展覧会や発表会など)に対して一定の助成を行うとともに、広報・運営に対する助言・支援を行うもので、障がい者アート活動を事業所から外へ押し出すことで、障がい者アートの魅力発信と、障がい者の自立や社会参加を促す目的で実施します。
引用:長崎県障害者芸術文化活動普及支援事業「令和5年度長崎県障害者芸術文化の発表の機会確保事業【追加】参加募集」
そのような背景を踏まえ、はじめての試みとなる「みんなのフェス」を開催しました。
会場である山の上のカフェGardenは、通常カフェとして、ランチメニューやドリンク、デザートなどを提供しているお店ですが、敷地内にある森スペースを地域資源として何か活用できないか検討しています。4月には焚火を囲みながら食と音楽を楽しむアウトドアイベントを開催しましたが、今回は、この自然環境だからこそ楽しめるアートや音楽があるのではないかと考え、この場所を会場としました。コンテンツとしては、大きく、アート作品の展示、ライブペインティング、音楽ステージ、表現活動の支援に関する映画の上映会、飲食や雑貨のマルシェの5つを企画いたしました。
イベント内容
① アートギャラリー
今回は「どうぶつ」「しょくぶつ」をテーマに作品を募集し、自然のなかにディスプレイを行いました。短い募集期間になってしまいましたが、島原半島に限らず、長崎県全体から沢山応募いただき、全部で171点ものアート作品が集まりました。当日会場に直接来られなかった方にも関わっていただくことができました。
山の上のカフェギャラリー
普段は道や景観と化している場所、例えば駐車場と店舗の間の屋外トイレに続く小道や、既存のオブジェや木々なども活用しながら、カフェ全体がアートに包まれる空間が出来上がりました。
森なかギャラリー
ポニー小屋の周辺の森のなかを散策しながら、素敵なアートと遭遇できるような、そのような空間をイメージして、展示を行いました。お客さまにも、森のなかにアートが溶け込んでいて素敵だったというご感想もいただきました。
受賞作品
どの作品も個性あふれる素敵な作品でしたが今回キュレーターの方に、特に輝いていた作品を17作品選んでもらいました。(【タイトル・作成者の名前】)
【威厳と凛々しさ 志岐真子】
【信じた道を突き進め 愛徳】
【トナカイ 竹内太一郎】
【YOZAKURA TSUMUDESU】
【無題 ヴァッフェル】
【にわとり 塚原若菜】
【これは何? 海】
【カブトムシ 山下】
【せいれつ 竹下美津子】
【あざみ 津田和彦】
【とり 吉田正子】
【ぼくのともだち 坂口倫太朗】
【妖精たち 城瑠那子】
【静かなる前浜(砂浜と海岸)
中山光雄】
【ぶどう 松村千代子】
【月夜のうつぼ 林田惟翔】
【シャボン玉 石橋真由美】
② ライブペインティング
ステージ横に設置した幅9mのキャンバスに、指や色々な画材を使って、心赴くままに絵を描いてもらいました。キュレーターの方やスタッフのサポートのもと、絵が完成!かなり幅の広いキャンバスでしたが、あっという間にキャンバスが埋まり、障がいをもった方も含めて、大人も子どもも、誰もが自由にペインティングを楽しむことができました。
完成したペインティングは、先日から銀の星学園の道路沿いに飾っています!お近くをお通りの際はぜひご覧になってみてくださいね。
③ 音楽ステージ
山の上のカフェ駐車場に特設ステージを設け、緑に囲まれた広場で気持ち良く演奏できる環境を整えました!様々な方に出演いただき、終日素敵な音楽を五感で楽しむことができました。
ClubSundew macciとおどろ!ハロウィンダンスパーティー
雲仙市でダンスを通して子どもたちの心と身体を育てるレッスンを行うClubSundewのmacci先生と、沢山のキッズダンサーたちが、会場を盛り上げてくれました。
DAI
DAIさんは、普段から曲作りをしており、ライブイベント等で演奏されているそうで、今回はギター弾き語りを披露されました。
出野涼香
コスモス会に所属し、普段よりボイストレーニングを受けており、芸術祭などに出演しているそうです。独唱を披露されました。
のだともよ
子育てをしながら音楽活動を続けるのだともよさん。旦那さんとお子さんと一緒に、ほっこりするような温かい歌を聴かせていただきました。
HOROYAKAN アフリカン音楽 ヤンカディ・マクル”太鼓・歌・ダンス”を覚えちゃおう!
長崎県で活動するジャンベクラブホロヤカン。ジャンベのリズムを刻みながら歌とダンスを楽しめるワークショップを行いました。緑いっぱいの気持ち良い空間のなかで、会場全体でアフリカン音楽を楽しむ光景がみられました。
坂口倫太郎
チラシ、スケジュールには記載していませんでしたが、作品を応募してくれた一人である坂口さんが歌を披露してくれました。
トカトカどん(銀の星学園)
音楽好きな利用者さんと職員により結成された音楽サークル「トカトカどん」午前午後といつもよりもハードな公演スケジュールでしたが、明るく元気に演奏を響かせてくれました♪
④ Free上映会
山の上のカフェの一会邸では、神戸市で活動するアーティスト集団「音遊びの会」のドキュメンタリー映画『音の行方』を無料で上映いたしました。インフォメーションでは、パンフレットの配布・CD/DVDの販売も行いました。音遊びの会や映画についてここでも少し紹介します。
音遊びの会とは?
2005年結成、知的な障害のある人を含むアーティスト大集団。月2回のワークショップを地元、神戸にて継続中。日本各地、イギリスなど遠征公演も多数開催。 楽譜や決まりごとはなし、演奏スタイルや表現のジャンルを超えた自由な即興演奏を基本に、様々なアンサンブルを生み出しています。予測できないものだからこそ面白い!
音遊びの会HP
きっかけは「音遊びプロジェクト」。発起人が大学院で音楽療法を研究するなかで、知的障がいのある人の豊かな感性によってつくりだされる即興音楽を社会に知ってもらいたいと考え、実験的な即興音楽の分野で活躍する音楽家や音楽療法士を招待して始めた取り組みです。
そこでは、型にはまったものではなく、予期しない出来事が音を紡ぎ、唯一無二の音楽をつくり出します。障がい者、健常者の括りはなく、一人ひとりがアーティスト。フラットな関係性をもって音楽を楽しむ姿は、障がい者が活躍できる社会を築くうえで価値観の転換を提起するものでもあります。
そんな活動を描いた映画『音の行方』は、彼らの日常や様々なスタイルの音楽セッション、メンバーの親のインタビューなどを記録したドキュメンタリー映画です。知的障がいをもつ方ののびやかに自由に音楽を奏でる姿、豊かな表現、音楽性に驚かされるとともに、パフォーマンスする(表現する)ことを支援するとは一体何なのかという問いについて、考えさせられる作品です。もし機会がありましたらご覧になってみてくださいね。
映画『音の行方』trailer
https://www.whereabouts-of-sound.com/trailer
※もっと知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
greenz.jp(2016)「予期しないものが生まれるからおもしろい! 知的障がいを持つ人たちを含むアーティスト集団「音遊びの会」が生み出す、自由度の高い即興音楽とは?」
https://greenz.jp/2016/03/10/otoasobinokai/
福祉をたずねるクリエイティブマガジンこここ(2022)「即興音楽の概念が変わる!? 〈音遊びの会〉のドキュメンタリー映画『音の行方』が公開中。上映・トーク・ライブの3部構成イベントも」
https://co-coco.jp/news/otonoyukue/
⑤ マルシェ
今回は、法人内の事業所のほか、社会福祉法人コスモス会やとんさか森の楽校にもご協力いただき、飲食ブースを設けアートや音楽とともに食事を楽しんでもらいました。
コスモス会
島原市の深江町にあるパン屋さん「ジパン」から焼き立てパン、早崎ステーションから、自家農園栽培無農薬小麦を使った昔ながらのかりんとう、その他わたがしをご提供いただきました。
とんさか森の楽校
焚火のイベントでも出店いただいたとんさか森の楽校に、今回は体温まる豚汁をご提供いただきました。
島原むすびす
島原むすびすからは、イベントで人気の肉巻きおにぎりと、焼きマシュマロを提供しました。
和食山の上
先日オープンした和食山の上。島原半島の旬の食材を使った御膳等のお食事を提供するお店です。今回は特別にお抹茶とお茶菓子を提供しました。
山の上のカフェGarden
イベント開催にあわせて通常メニューとは異なる形でしたが、ドリンクの他、ピザなども提供し、イベントを楽しんだあとにゆっくりカフェタイムを楽しんでいただけたようです。
カフェ内で常時販売させてもらっている雲仙市のGrowth(Mirai Ai)の雑貨も、より多くの方にご覧いただけたかと思います。
障がい者の文化芸術と地域資源(森)の活用
障がい者の文化芸術の可能性
アートや音楽などの文化芸術は、障がいの有無関係なく、楽しみ表現できるものです。自分の想いや考えをのせて自由に自己表現することが可能であり、また固定概念に縛られることのない豊かな感性が光る瞬間がみられます。今回並べられたアート作品や演奏をみて、職員自身、その可能性を改めて感じることとなりました。
森なかで楽しむアート・音楽
島原市には、都市のように大きな美術館等がありません。作品展は室内での開催が一般的とも思われますが、今回はじめてみんなのフェスを実施して、工夫次第で森の中でアートや音楽を楽しむことができるという発見がありました。今回は幸い天気に恵まれ、森の空間で作品を展示することが出来ましたが、作品の額装や展示方法などの改善点を踏まえたうえで、今後も様々な企画を考えていきたいと思います。
また、アート以外にも、4月のアウトドア(焚火)イベントのように、様々な自然にはあふれているが、自然を体験・体感できる場所が少ないという課題もありますので、山の上のカフェ敷地内の森スペースは、今後も積極的に活用していきたいと思います。
協働の必要性
今回は、初の試みとして挑戦しましたが、まだまだ障がいのある方の文化芸術活動の支援に関して、知識も経験も不足しているのが現状です。これから試行錯誤を続けていくとともに、島原半島や長崎県内において、活動を進めている法人と連携して、情報共有や発表の機会創出に努めていきたいと思っています。
まとめ
今回、「境目のないアートや音楽」を通して、作品を応募されて見に来られた方やステージで演奏された方など、皆さん笑顔があふれ、思い思いに楽しんでいただけたようでした。また、来場者の方のなかでも、普段障がいのある方と関わりが少ない方には、障がいのある方の豊かな感性や表現力に触れるきっかけとなり、障がいや福祉の捉え方が少しでも変わる瞬間があったのではないでしょうか。
悠久会としては、今後、利用者さん一人ひとりの可能性を引き出し、表現することの支援の質を高めていくとともに、地域共生社会の実現に向けて、障がい者と健常者と呼ばれる人たちがともに何かを楽しむ接点になるような機会をつくっていきたいと考えています。
今回は、実行委員会として3法人に参画いただき、アート作品やステージ出演者の募集にあたっては、長崎県内における多くの事業所にご協力いただきました。また、はじめての試みとして、当日の運営ボランティアを募集しました。福祉分野だけでなく、医療や環境など様々な学部の大学生に参加いただき、福祉や障がい者の文化芸術に触れ、また島原半島に足を運ぶ機会にもなっていれば幸いです。関わってくださった皆さま、本当にありがとうございました。
今後も、自然を含め様々な地域資源の活用を通して、文化芸術・スポーツ・生涯学習など「知」を共有できる機会の創出、地域社会の持続や循環に資するあらゆる事業の展開に努めていきたいと思いますので、ご協力のほどよろしくお願いいたします。