SDGs目標1「貧困をなくそう」生計困難者レスキュー事業 ~社会福祉法人悠久会のSDGsの取り組み~

社会福祉法人悠久会は、福祉課題を始めとする様々な社会課題の解決に向けて取り組んでいます。SDGs目標1「貧困をなくそう」は、悠久会が取り組む重要な社会課題の1つです。日本では「6人に1人が相対的貧困状態」にあると言われ、私たちの身近にある社会課題なのです。

この記事では、社会福祉法人悠久会が地域の福祉課題にどう取り組んでいるのか、「生計困難者レスキュー事業」を通じてどのように貧困対策を進めているのかを紹介します。実際にこの事業を担当する社会福祉士(ソーシャルワーカー)へのインタビューを通じて、事業の社会的意義や、SDGs目標1の達成にどうつながるかについて掘り下げていきます。さらに、社会福祉士の専門性にも言及していきたいと思います。

【日本の貧困率】
・2021年(令和3年)の貧困線(等価可処分所得の中央値の半分)は127万円
・相対的貧困線(貧困線に満たない世帯員の割合)は15.4%
・貧困率はOECDの作成基準
 2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況(厚生労働省より)

インタビュアー・記事執筆者:永代秀顕(ながよひであき)
社会福祉法人悠久会の理事長。認定社会福祉士(障がい分野)

インタビュイー:末吉勇介
社会福祉法人悠久会の法人事務局所属、社会福祉士。生計困難者レスキュー事業の担当CSW(コミュニティソーシャルワーカー)

社会福祉法人が取り組む 生計困難者レスキュー事業とは

社会福祉法人悠久会が取り組む「生計困難者レスキュー事業」は長崎県社会福祉法人経営者協議会において組織され、圏域単位の10ブロックに区割りし活動を行っています。(事務局は長崎県社会福祉協議会)

生計困難者レスキュー事業について

生計困難者レスキュー事業
生計困難者レスキュー事業は長崎県内の複数の社会福祉法人が連携し、拠出した基金(生計困難者レスキュー事業基金)をもとに生計困難者を支援する事業です。(約100の社会福祉法人が参画)

  • 対象者
    緊急的な支援を必要とする生計困難者(生活保護の対象ではない方)
  • 支援内容
    福祉専門職による相談支援及び食料等の現物給付等の経済的援助の実施
  • 特徴
    福祉制度が直ちに使えない状況下においても、行政や社協等との関係機関と連携し福祉制度につなげるまでの緊急的援助を行うことが可能です。また、コミュニティソーシャルワーカーを配置できない法人であっても事業の対象者を幹事法人につなぐなどの相談窓口となり貢献することができます。

生計困難者レスキュー事業の4つの特徴

①緊急性の高い支援
食料や日用品の提供、滞納している公共料金(電気代、ガス代、水道料金等)を支払うことによりライフラインを復旧させるなどの支援を行います。

②現物給付を基本とする
現金を対象者に直接お渡しするのではなく、食料を購入してお渡ししたり、公共料金を代わりに払うなどの現物給付を行っています。

③短期集中的支援
おおよそ1ヶ月以内の期間及び10万円以内の現物給付を基本としています。

④福祉制度への橋渡し
福祉制度外の生活困窮者レスキュー事業から生活保護等の既存の福祉サービスにつなげる役割も果たします。

社会福祉法人悠久会のYDGs目標5「住み慣れたまちでの生活を守ろう」との関連性とSDGs目標1「貧困をなくそう」への貢献

5_住み慣れたまちでの生活を守ろう

YDGs目標5
「住み慣れた地域での生活を継続するために強くしなやかなセーフティネットを構築しよう」

この目標では、障害福祉分野にとらわれず、立場の弱い人や生活課題を抱え、困っている人を対象に支援を行うことを目標に掲げています。

社会福祉法人は地域における「セーフティネット」の最後の砦として重要な役割を担っています。過去には生計困難者のように緊急性が高い人達に対し、福祉サービス事業者は「福祉サービスの対象外だから十分な支援ができない」もどかしさを感じる場面もありましたが、「生計困難者レスキュー事業」を活用することで、障がい、高齢等の分野にとらわれず、福祉制度の対象外の地域住民にも即座に支援を行うことができるようになりました。
(第二種社会福祉事業「生計困難者に対する相談支援事業」)

「生計困難者レスキュー事業」に参画することで、社会福祉法人の地域におけるセーフィティネット機能が強化されます。その結果、SDGs目標1「貧困をなくそう」の解決に向けて、地域社会の持続可能性を高めるとともにSDGsの理念「誰一人取り残さない」社会の実現に近づけることができます。

生計困難者レスキュー事業の支援の流れ(フロー)

永代

「生計困難者レスキュー事業」について、初めて聞く方にもわかりやすく説明して頂ければと思います。

末吉

それでは「生計困難者レスキュー事業」の実際の流れを説明させていただきます。

生計困難者より相談を受け付ける

相談のきっかけは、主に市役所の福祉課(生活保護課)経由で相談が寄せられます。

一次判定

幹事法人となる社会福祉法人のソーシャルワーカーが「生計困難者レスキュー事業」の支援対象者となるかどうかの判断を行います。

二次判定

CSW(コミュニティソーシャルワーカー)が実際に生計困難者の自宅等に訪問し、アセスメントを実施します。

支援計画の策定

アセスメントをもとに生計困難者に対する具体的な支援計画を策定します。

支援実施

必要となる食料や日用品の提供、公共料金の支払いなどの現物給付を行います。

フォローアップ

支援後の対象者の生活状況の確認と、更なる追加支援が必要かどうかの判断を行います。

生計困難者レスキュー事業の流れ(詳細)

①関係機関(福祉事務所、市町福祉担当課、社会福祉協議会、地域包括支援センター、医療機関、福祉サービス事業者、民生委員、自治会、NPO法人など)による幹事法人への利用相談が入る。

②幹事法人は、複数回利用者に該当していないか、生活保護を受給していないかを確認し、事業対象者に該当する(一次判定「仮判定」)と判断した場合は、関係機関より詳しい相談内容をFAXもしくは電子メールにて受け取る。

③幹事法人は、自ら支援を行うか、所属ブロック内の参加法人に依頼し、担当CSWを調整する。

④幹事法人又は、依頼を受けた法人は、関係機関と共に生計困難者の居宅を訪問する。相談内容を基に初回アセスメントを行い、生計困難者の生活状況を把握し、事業対象者に該当する(二次判定「本判定」)と判断した場合は、レスキュー事業の支援内容や注意事項を説明し、レスキュー事業の利用に同意をいただく(専用の同意書サインをいただく)。同意により、正式にレスキュー支援開始となる。

永代

対象者からは、どのようなルートで相談が来るのでしょうか?

末吉

レスキュー事業の主な相談ルートは関係機関からの相談がメインですね。時々、本人やその家族から直接相談が来ることもありはしますが、公的サービスまでのつなぎという側面もありますので、関係機関にもつないで連携して相談に乗るようにしています。初期相談は支援対象者の自宅に訪問して行うことが多いです。

永代

生活困窮者レスキュー事業の支援対象者とする判定基準はありますか?

末吉

生活保護受給者はこの制度の対象にはなりません。また、この事業の支援を何回も受けていないか?支援基準額の10万円以内に収まるか?等は確認します。10万円を超える支援が必要な場合は長崎県社会福祉協議会の事務局へ確認する必要があります。食料品や日用品の支援だと5万円以内に収まるケースが多いのですが、家賃滞納等があると大きめの金額になりがちですね。

永代

家賃を複数月にわたり滞納している場合などは、大家さんへの説明や理解を得ることが大変そうですね・・

末吉

いえ、案外と家賃の分割交渉には応じてくれますね。対象者の状況への理解もありますし、正直、困窮する状態が続いて家賃滞納が続くよりも、第三者(行政の担当者やCSW)が入り、生活再建に向かう方が大家さんが安心という事情があるようです。

永代

生計困難者レスキュー事業で受けた支援(現物給付)は返済する必要はあるのでしょうか?

末吉

原則返済の必要はございませんが、生活に十分な預貯金を隠し持っていた場合や収入があったにも関わらず、担当者に報告等をしなかった場合等は返還を求めることもありますね。その辺りの留意事項については本人との面談の際にお伝えしています。

生計困難者レスキュー事業の支援事例

生計困難者レスキュー事業の業務フローの概要を説明させていただきました。この章では実際の生計困難者への支援事例を通して、より制度の理解を深めたいと思います。

末吉

生計困難者レスキュー事業のCSW(コミュニティソーシャルワーカー)として、下記のような支援を行いました。

生計困難者への支援事例1 再就職までの生活支援

生計困難者であるAさん。再就職が決まって収入の確保が見込まれるものの、初任給までの生活費が底をつきそうです。電気やガス等のライフラインも公共料金の滞納で停められており、携帯電話も使えない状態。

ライフライン(電気等)や携帯電話が使えないと生活や就職活動もままなりません(画像はイメージです)

支援内容①:生計困難者レスキュー事業

  • 食料と日用品の提供
  • 滞納していた公共料金(一部)を支払い、ライフラインを復旧
  • 携帯電話の契約支援を行うことによる連絡手段の確保

<支援結果>
上記支援を行うことで、対象者は再就職先での勤務をスムーズに開始することができました。「就職は決まったものの初任給が入るまでの生活をどうすればよいのか・・」生活困窮者レスキュー事業の制度を活用することで、生活不安を解決することにつながりました。また、携帯電話がつながらない状態では、就職先企業との連絡が困難になり就業がスムーズに開始しないことでしょう。

社会福祉法人悠久会では県南障害者就業・生活支援センター「ぱれっと」を運営しております。この事業を通して、就労を安定させるには生活面も安定している必要があると感じています。就労と生活は両輪の輪なのです。

生計困難者への支援事例2 再就職活動中の方の生活再建

生計困難者であるBさん。再就職活動中で失業手当を受給中でしたが、初回の給付金を使い果たしてしまい、次回の給付までの生活費が尽きてしまいました。

支援内容②:生計困難者レスキュー事業

  • 食料の提供
  • 公共料金の支払い支援
  • 家計管理のアドバイス

<支援結果>
Bさんはこの支援をきっかけに家計管理の重要性を理解し、その後の生活を立て直すことができました。上記事例からも生活困窮者レスキュー事業は単純に生活必需品を提供するだけではなく、支援対象者の生活力の向上につなげる支援も行っていることが特徴の一つでもあると言えます。

生計困難者レスキュー事業の実践事例を通して感じる課題感と解決策

末吉

実践を通して感じる課題感として早期発見が難しいことがあげられます。自ら助けを求めることができず、初期訪問を行った際には危機的状況(電気やガスが止まっていて、手持ちの食料も少ない)というケースもありました。
相談につなぐのが遅れることで、より経済的に厳しい状況になるだけではなく、孤立感や就労意欲の低下等の複合的問題に発展し、課題解決がより困難になってしまいます。

課題解決のための提言として、社会的孤立を防ぐ取り組みはもちろん、不動産屋、ガス会社、電気会社等の方達と連携して数ヶ月滞納状態にある方は生活に困窮している可能性が高いので、生活困窮者レスキュー事業等の支援情報等を提供することができれば早い段階で相談につなげることができるのではないでしょうか。

支援を受けることへの抵抗感「人に助けを求めるのはギリギリまで自分で頑張ってから」と考えている方も多く、身近に安心して気軽に相談できる環境を作れるといいかなと思います。

永代

社会的孤立を防ぐ取り組みを行うことで、生計困難者への支援につながるということですね。福祉分野だけではなく、地域全体で包括的な支援の輪を広げる「福祉のまちづくり」の視点が大事だと改めて感じました。
このように予防的アプローチの観点から考えると、地域コミュニティの活性化やつながりの強化(居場所作り)社会関係資本(ソーシャルキャピタル)の充実等の地域力、地域の福祉力を高めることが大事ですね。

気軽に相談できる環境作りとしては、将来的にはAIチャットボットによる相談等も行われるかもしれませんね。(人に相談することには抵抗があるけれども、ネット検索等はあまり抵抗感を感じないという心理)

※社会関係資本(ソーシャルキャピタル):人同士の信頼関係やネットワークなどの社会的なつながりを資本とみなす考え方。

※「社会的孤立」については過去の記事、SDGs目標3「福祉によるウェルビーイング向上への取り組み事例」の記事でも取り上げています。社会的孤立の問題点として「生きる意欲」及び「自己肯定感」の低下を招くことがあげられています。

末吉

その他には、生計困難者レスキュー事業を担当する人的リソースにも課題感があります。参画する社会福祉法人をさらに増やすとともに、CSW(コミュニティソーシャルワーカー)も増えるとよいかなと思います。

参考:生活困窮者自立支援制度について

生計困難者レスキュー事業を理解し、有効な支援を行うためには関連法令の理解も必要かと思いますので紹介をいたします。

永代

福祉関係法令を理解することで支援の選択肢は広がります。社会福祉士(ソーシャルワーカー)として実践を行うには福祉制度の理解は必要不可欠でしょう。
生計困難者レスキュー事業を理解し、支援対象者に有効な支援を行うためには関連する生活困窮者支援の法令を知っておくべきですので、少し紹介させていただきます。

生活困窮者自立支援制度

平成27年より開始された「生活困窮者自立支援制度」は経済的困難な状況に置かれている人達を対象に社会的・経済的に自立できるように支援することを目的にした制度です。支援内容を下記にまとめます。(参考:厚生労働省「生活困窮者自立支援制度」

<生活困窮者自立支援制度の支援>

  • 自立相談支援事業
    生活の困りごとを抱えている人に対し、地域の身近な相談窓口(市町村や社協等)に相談することで自立に向けたプランを作成してくれます。
  • 住居確保給付金の支給
    離職等の住居を失った方を対象に一定期間の家賃相当額を支給する制度です。(※就職活動を行うことが条件であったり、一定の資産収入等に関する要件があります)
  • 就労準備支援事業
    直ちに就労をすることが難しい方(コミュニケーション等に課題)に6ヶ月から1年の期間のプログラムを提供し、就労に向けた支援等を行います。
  • 家計改善支援事業
    家計状況の「見える化」と課題の把握を行い、自分で家計を管理できるように支援計画を策定します。関係機関と連携し、必要に応じ貸し付けの斡旋を行い生活再建を支援します。(※一定の資産収入の要件あり)
  • 就労訓練事業
    一般就労が困難な方に、個別の就労支援プログラム、就労の機会の提供を行います。就労訓練事業(中間的就労)もあります。
  • 生活困窮世帯の子どもの学習・生活支援事業
    子どもへの学習支援及び進学支援や生活習慣の改善、居場所づくり等を子どもと保護者の双方に行います。
  • 一時生活支援事業
    住居等のない方を対象に一定期間、宿泊場所や衣食を提供します。退所後の生活のために就労支援等も行います。(※一定の資産収入の要件あり)

※「自立相談支援事業」は必須事業ですが、その他の事業「就労準備支援事業」「一時生活支援事業」「家計相談支援事業」「学習支援事業」等は任意事業です。

生計困難者レスキュー事業と生活困窮者自立支援制度の違いとは?

永代

「生計困難者レスキュー事業」と「生活困窮者自立支援制度」の違いも解説します。

■生計困難者レスキュー事業
社会福祉法人経営者協議会(経営協)等が行う事業。複数の社会福祉法人が資金を拠出し、福祉サービスの対象外の方達を対象に緊急的な食料提供、公共料金の支払い等の現物給付やCSW(コミュニティソーシャルワーカー)による相談支援を行います。対象者の支援状況によっては福祉制度につなげることもあります。

■生活困窮者自立支援制度
「生活困窮者自立支援法」に基づき運用される制度。生活保護に至っていない生活困窮者に対する「第2のセーフティネット」を拡充。生活保護制度との連携も行う。実施主体は福祉事務所設置自治体であるが、民間事業者(社協等)への委託も可能となっています。
参考:生活困窮者自立支援法について(厚生労働省:PDF

生計困難者レスキュー事業における連携とネットワーク構築

生計困難者レスキュー事業を有効に機能させ、生計困難者を支援するためには、福祉の関係機関だけではなく、民間も含めたあらゆる団体等との連携は欠かせません。

【生計困難者レスキュー事業の連携先】

  • 行政:市町村の福祉事務所や生活保護課等
  • 社会福祉協議会:生活福祉資金貸付等
  • ハローワーク:就労支援
  • フードバンク:食料支援
  • 法テラス:法律相談
  • 民間企業:電気、ガス、水道、通信会社等や不動産会社(賃貸住宅)
  • インフォーマル団体等:自治会、民生委員、ボランティア等
末吉

様々な団体と連携を取れることで、支援対象者に対して幅広い支援を行うことが可能になります。例えば「フードバンク」を活用することで、食料支援をスムーズに行うことができます。

生計困難者への食料支援にも活用されるフードバンク(画像はイメージです)
永代

社会福祉法人悠久会では、定期的に「フードドライブ」活動を行っていて、そこで集めた食料品を「フードバンク」に寄付しています。フードバンクは食品ロスの削減及びSDGsの推進に貢献できるのですが、さらに生活困窮者レスキュー事業にもつながっているので嬉しいことです。
参考:フードバンク(農林水産省)

末吉

色々な関係機関等と連携させて頂いているのですが、さらに多様な団体が参画してくれれば支援の幅が広がりますので、ぜひ、生計困難者レスキュー事業に参画いただければと思っています。

生計困難者レスキュー事業における社会福祉士としての専門性の発揮

生計困難者レスキュー事業ではCSW(コミュニティソーシャルワーカー)と呼ばれる人達が支援にあたります。この章ではソーシャルワーカーとしての専門性にフォーカスをあてていきたいと思います。

永代

私も社会福祉士なので気になるんですが、この生計困難者レスキュー事業の実践場面において、社会福祉士としての専門性はどのように発揮できていると感じますか?今後、社会福祉士を目指す福祉学生さんや社会福祉士としてキャリアアップを目指す方にも参考になるかなと思いまして。

末吉

社会福祉士としてのソーシャルワークのスキル等は実践場面の随所で活かされていると思います。(詳細は下記にまとめます)

【生計困難者レスキュー事業で活かしたソーシャルワークのスキル】

  • アセスメント
    本人の生活状況や自立度、取り巻く環境も踏まえ生活課題の分析等を行います。
  • 地域の社会資源把握
    活用できる福祉制度やインフォーマルなサービス等のありとあらゆる社会資源を把握するスキルが求められます。
  • ケースマネジメント
    アセスメントで得られた課題をもとに様々な社会資源を選定し調整する必要があります。(地域の福祉サービス、公的制度、民間団体、インフォーマルなサービス等)
  • 多職種連携
    障がい福祉分野のみではなく分野を超えた連携や、福祉分野以外の多様な地域の方々と連携できるスキルが必要です。そのためにはコミュニケーションスキルも必要です。
末吉

個人的にはケースマネジメントのスキルを伸ばしたいと思っています。その理由として、いくら制度の知識や社会資源を把握していても、これらの資源を有効に活用ができないと十分な成果はあげることができません。
サービスを提供している様々な専門職と連携・調整する力を身につけていきたいと思っています。

永代

ありがとうございます。
社会福祉士(ソーシャルワーカー)・相談員・MSWの職種を目指すにしても、近年は「やりがい」「適性」「キャリアアップ」なども気にする学生さんが多いと思います。その辺りのお話もよろしくお願いいたします。

末吉

生計困難者レスキュー事業での実践をもとにお話いたします。

「やりがい」ですが、生活面で困りごとを抱えている人の役に立てること。すなわち「生活の質の向上」に貢献できることです。レスキュー事業では短期集中的な支援であるので支援の成果を実感しやすく、感謝の言葉を頂くことも多いです。

社会福祉士としてソーシャルワークのスキル(資格を活かせる)を発揮できることもやりがいを感じられると思います。さらに、社会福祉法人として地域社会に貢献し、セーフティネットの一翼を担えることも社会的意義の実感につながります。

末吉

しかし、やりがいもありますが、課題解決に伴う困難な場面もあります。

単純な課題だけではなく、複合的な課題を抱えていたり、早期発見が難しいことがあげられます。ギリギリまで我慢される方もいますので、緊急対応も多くなります。限られた時間で効果的な支援手法を模索する必要があります。

支援できる支援の制限(金額で10万円以内が目安)や継続的にフォローする難しさ、1回支援を行い課題が解決できればいいのですが、再度、短期間で生活困窮に陥るケースもあります。

多職種連携では、合意形成や支援方針を固めるにも多少時間もかかります。また、生計困難者の深刻な生活場面に直面することでソーシャルワーカーも心理的負荷がかかる場面もあります。

永代

なるほどですね。
支援対象者の困難な生活課題解決に真摯に取り組むからこそ、感謝もされるし、やりがいを感じる仕事なのでしょうね。

末吉

ソーシャルワーカーとしての適性の話ですが、

・多職種連携や支援対象者さんと信頼関係を構築するのが大事ですので基礎となる「人間力」や「コミュニケーション力」が重要です。

・支援対象者のために困難な課題に立ち向かうことの労力をいとわない人。幅広い制度の知識や社会資源の把握、他の専門職との連携等を活かした、柔軟な発想で臨機応変に動ける行動力が求められると思います。

・困難な場面や深刻な状況下においても可能性を信じて前向きに行動できるメンタルの強さ(ストレス耐性やレジリエンス)と粘り強さが必要です。

・生計困難者は複雑かつセンシティブな課題を抱え、その尊厳が失われている状況も想定されますので、より高度な倫理観に基づき支援を行わないといけません。

永代

ありがとうございます。
私も職能団体である社会福祉士会で活動をしていたので、実践力のある社会福祉士(ソーシャルワーカー)という話題には興味がありまして・・・

私が思う、実践力の高い社会福祉士のイメージとしては

・フットワークが軽いこと(スマートさと泥臭さ)
生活困窮者レスキュー事業の支援を聞いても、そう思うのですが相談室で黙って座っていれば、クライアント(相談者)が訪ねてきて話を聞いて、相談に乗って「○○さん、話を聞いてもらって、ありがとうございました。解決しました。」という簡単な仕事ではないと思います。時にはアウトリーチをして自らニーズをキャッチしにいくことも求められるでしょう。制度を使いこなすスマートさと地道に動く泥臭さの両方が求められると思います。

・柔軟な発想力と視野の広さ
近年の福祉課題の複雑さから考えると、単純に福祉サービスと福祉サービスを結びつけるプランニングでは問題解決に至らないこともあるでしょう。となると福祉制度以外のインフォーマルなサービスな民間企業や民間団体等のありとあらゆる社会資源を把握し、必要に応じて活用できる視野の広さと柔軟な発想力があることが望ましいでしょう。

・ネットワーク力(顔と顔の見える関係作り)
地域のありとあらゆる社会資源を活用する必要性からも、福祉事業者以外ともネットワークを広げることが求められるでしょう。福祉の枠に留まらず、地域全体に視野を向けてネットワークを構築する必要があります。まちづくりに貢献できるソーシャルワーク実践が次世代に求められるソーシャルワーカーではないでしょうか。
さらに、災害支援ソーシャルワーク等の緊急時には悠長にネットワーク構築に取り組む時間はないでしょう。平時から顔と顔の見える関係性、すなわち電話1本で頼み事ができる関係性を築いていることも大事だと思います。

・サポート力やファシリテーション能力(裏方力)
ソーシャルワークにおいて主役はソーシャルワーカーではなくクライアントです。初期相談においては前面に出ることもあるでしょうけれども、社会資源の動員やネットワークを展開していく段階ではソーシャルワーカーは前面に出すぎるのではなく、調整及びサポート役を担ったり、全体をファシリテートしていく能力や姿勢が求められると思います。
例えば、福祉サービスを利用する場面においては、生活支援員等の介護職が直接支援を行いますし、ソーシャルワーカーが直接支援を行うわけではありません。サービスが提供される場面では、意思決定支援のための調整や仲介、代弁(アドボガシー)等の役割を担うわけですし、サポート力を発揮していく場面でしょう。サッカーで例えるとソーシャルワーカーはガンガン前に出て得点を狙いにいくフォワードではなく、全体を見て支援を組み立てる司令塔的ポジションのようなものでしょうか。自分が自分が・・ではなく、周囲の力を最大限引き出す力が必要であると思います。

ソーシャルワーカーはフィールド全体(支援プロセス)を捉える「俯瞰力」が必要かと思います。
永代

<ソーシャルワーク理論の詳細補足>
ソーシャルワーク実践においては「人間行動理論」「社会システム理論」が実践基盤となります。

プロセスで区分すると「状況を理解するための理論(相互作用理論)」と「援助を行う理論(介入理論)」に区分できます。
先ほど述べた「俯瞰力」(全体像を見渡す力)は「状況を理解する理論(相互作用理論)」であり、代表的なものとして「生態学的(エコロジカル)モデル」と「システム理論」があります。

全体を俯瞰してクライエントを取り巻く状況(個人面及び環境面、相互に及ぼし合う影響等)を理解し、アセスメントが適切に行えないとプランニング(支援計画)も的を射たプランになりません。当然に、適切な介入(援助)も行うことができません。社会福祉士として生態学的(エコロジカル)視座を持ち、物事を捉えるよう意識することが質の高いソーシャルワークを行うために必要なのです。

※過去記事「介護職・福祉職のキャリアについて」にて「キャリア」「キャリアデザイン」を解説しています。興味があります方はあわせてお読みください。

参考:ソーシャルワーク専門職である 社会福祉士に求められる実践能力(日本社会福祉士会)PDF 平成29年3月28日

まとめ SDGs目標1「貧困をなくそう」を達成するために私たちができること

本記事では、生計困難者レスキュー事業の取り組みを通じて「SDGs目標1 貧困をなくそう」の達成につながることが確認できました。また、生活困窮者レスキュー事業を推進するには「SDGs目標3 すべての人に健康と福祉を」で取り上げた社会的孤立を防ぐことも有効なアプローチの1つだと言えます。さらに「SDGs目標11 住み続けられるまちづくりを」(過去記事:社会福祉法人が取り組むまちづくり ~福祉とまちづくりとSDGs~)で掲げた福祉のまちづくりの視点から、福祉分野以外の民間団体等も巻き込みながら地域の福祉力を高めるアプローチも有効です。

社会福祉法人悠久会では、今後も「SDGs目標1 貧困をなくそう」を達成するために、関連する他のSDGs目標も同時に取り組み、地域から貧困の予防と貧困を減らす活動を行います。

皆で取り組む貧困問題の解決のためのアクション

生計困難者レスキュー事業を通じて、貧困問題の複雑さと解決の難しさ、社会資源の重要性、様々なリソースの確保等の重要性をより強く実感しました。貧困問題を解決するためには、社会福祉法人悠久会だけの取り組みでは不十分です。社会全体の貧困問題への理解と協力が必要不可欠なのです。私たちが暮らすこのまち、そして日本全体の貧困をなくすためには、私たち一人ひとりが意識を変え行動を起こすことが重要であり、それが社会を変える力になるのです。

例えば、SDGs目標1「貧困をなくそう」を実現するために私たちが取り組むアクションとして下記の取り組み等があります。

【貧困をなくすために私たちができること】

  • 貧困問題を知る
    まずは地域や日本においてどのような貧困課題があるのか知ることから始めましょう。
  • フードロスの削減とフードバンク活用
    家庭や企業で余った食料品をフードバンクに寄付することで、生計困難者への食料支援に活用できます。
  • 地産地消の推進
    地域内で生産された商品を購入することで地域の経済活性化が実現でき、地域の所得向上が見込まれます。
  • エシカル消費(フェアトレード)
    フェアトレード商品の購入は世界全体の貧困問題解決につながります。
  • エシカル消費(障がい者の就労継続支援事業所の商品の購入)
    障がい者の雇用の場である就労継続支援事業所。ここでは商品を販売したり、役務の提供を行っています。積極的に活用頂けることで障がい者の方の所得向上につながります。
  • ソーシャルビジネスとしてのユニバーサル就労(中間的就労)の推進
    直ちに働くことが困難な事情を抱えた人が働きやすい場所、一般就労の前段階の就労訓練として中間的就労を活用することで就労の機会の確保につながります。
  • 子ども達への学習支援
    学校以外の場所でも、子ども達の学習状況に合わせた支援を行うことで貧困の連鎖を防ぎます。

貧困問題は人類の歴史上、途絶えたことがない問題です。しかし、一人一人が小さくても行動を起こすことで貧困問題を解決する大きな動きを生み出す原動力になるでしょう。皆さんも小さな一歩から始めてみませんか?

社会福祉法人悠久会では今後も生計困難者レスキュー事業の推進や様々な取り組みを行うことで「誰一人取り残さない」社会を目指してまいります。

(社会福祉法人悠久会のその他のSDGsの取り組みをご覧になりたい方は下記のページをご参照ください。)

Sustainable Development Goals

悠久会は、持続可能な開発目標(SDGs)を推進しています。

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この記事を書いた人

永代 秀顕

〔プロフィール〕
社会福祉法人悠久会の理事長。大学で社会福祉を学び卒業時に社会福祉士(certified social worker)を取得。2005年入職、2019年より現職。
悠久会は長崎県の島原半島を中心に福祉事業を行っており、SDGsとまちづくりを含めた社会課題と福祉課題の同時解決に取り組んでいます。

〔保有資格〕
・認定社会福祉士(障がい分野)
〔活動等〕
・SDGsアンバサダー(日本青年会議所公認)として、自法人でSDGsの実践に取り組むと同時に、社会福祉法人が取り組むSDGsの事例等について講演や福祉業界紙への執筆活動等を行っています。
〔所属団体等〕
・(一社)長崎県社会福祉士会 (2016年~2019年 副会長)
・(一社)長崎県知的障がい者福祉協会 理事、九州地区知的障がい者福祉協会 理事
・(一社)島原青年会議所 第64代理事長(2020年 卒会)