はじめに
社会福祉法人悠久会では、2024年4月より、法人内の組織活性化を目的に、管理者及び中間管理職を対象とした研修を行っています。今回は、研修実施の背景や4、5月に行った研修の内容をレポートします。
組織活性化の取り組みの背景
悠久会が目指す地域福祉の姿
社会福祉法人悠久会では「あらゆる立場のすべての人々の心が通い合う社会の実現」を目指し、「福祉×SDGs×まちづくり」のアプローチで事業を展開しています。
具体的には、中長期目標として掲げているYDGsにおいて、目標13「開かれた場所であろう」:社会福祉法人のもつ福祉施設を地域に広く開放し、社会資源の一つとして地域交流の場にしていくという目標を掲げています。
また、目標14「みんなで協力し合おう」では、利用者さん1人ひとりの自分らしい暮らしを実現すべく、福祉の垣根を超えた連携・協働による地域生活支援が必要不可欠であることを述べています。
そのようにして法人のもつポテンシャルを最大限発揮するためには、目標7「個々が輝く組織であろう」にもある通り、組織内のコミュニケーションや協働の力が必要不可欠です。お互いの事業所の存在価値を認識し、連携・協働することが地域共生社会の実現に影響を及ぼすと考えています。
組織活性化の必要性(悠久会の現状と課題)
一方で、これらの考え方が、未だ法人全ての事業所、職員に浸透しているとはいえません。取り組みの方向性や事業所同士の連携の度合いも異なっているのが現状です。
こうした課題感を踏まえ、定量的にも現状を把握するために、仕事をする環境、成長度や評価、仕事の質の高さ、会社の理念・使命と自分の仕事の役割や意義などを問うアンケートを全職員に向けて実施しました。その結果、「自分が最も得意なことをする機会が毎日ある」「過去7日間の中でよい仕事をしたと認められたり褒められたりした」「過去半年の間に職場の誰かが私の成長度合いについて話してくれた」という項目が平均値を下回る結果となりました。課題として、職場内のコミュニケーション活性化や人材育成(個人の成長機会の創出)、評価制度の見直しなどが必要だと見受けられます。
組織活性化に向けたエンゲージメント向上の取り組み
このような背景から、改めて事業所間の横のつながりを強化し、職員1人ひとりがより法人のため(=利用者さん、地域のため)尽力したいと思える風土づくりに取り組もうと、エンゲージメント向上プロジェクトが立ち上がりました。
💡エンゲージメントとは?
従業員の会社に対する愛着心や思い入れのこと。個人の成長や働きがいを高めることが組織価値を高め、組織の成長が個人の成長や働きがいを高めるという考え方です。
参考:研修資料(日本の人事部 HRペディア「人事辞典」組織開発 エンゲージメント)
最終的なゴールは、ビジョン達成に向けて、活発で持続可能な組織となること。そのためには、エンゲージメントを向上させる必要があります。
エンゲージメントを向上させるための知識習得や仕組みの構築を行い、1人ひとりのモチベーションが高まると、法人や事業所のミッション達成に向け、主体的に考え、実践するようになる。結果として、サービスの質が向上するなど、組織が活発化する。こうして組織が活発になると、1人ひとりがより高みを目指して業務にコミットするようになり、好循環が生まれる。というように、相互作用的な関係性があります。そのような好循環により、組織をより良いものにできればと考えています。
図:エンゲージメント向上と組織活性化の相互作用 (参考:研修資料)
エンゲージメント向上に何が必要か?
以上の背景を踏まえ、サスティナブルアカデミーの代表嶋田亮さんを招き、まずは各事業所の管理者や、現場職員を育成する立場にもある中間管理職に向けた研修が始まりました。サスティナブルアカデミーは、企業のお困りごと解決やSDGs推進活動を通じて、地球の未来に貢献しながら、社会から選ばれる会社になるための伴走支援を行っている会社です。
サスティナブルアカデミーとは?
サスティナブルアカデミーでは「みんなが笑顔で暮らせる社会の実現のために」、多くの方がSDGsを自分ごととして行動されるために「1人の1000歩 より1000人の1歩」となる活動をしています。また「みんなが働きやすい職場づくり」のお手伝いとして「人間関係の質向上」と「社員の実力発揮」の2軸について伴走支援しています。
引用:サスティナブルアカデミー「サスティナブルアカデミーについて」
あり方の受容
■あり方の受容
前向きな姿勢で取り組む風土をつくるためには、働く職員同士の関係性が重要です。信頼関係を構築するには、知識やスキルを身につけるだけでなく、マインドとして、人はそれぞれ異なる価値観や信念を持っていることを認識し、受け容れること(=あり方の受容)が必要不可欠です。
その一つの方法として、ディシジョンマトリクス診断というツールを使いました。人の価値観は大きく、合理派・直感派・協調派・分析派の4つに分類されるそうです。各タイプによって捉え方や価値観が異なり、具体的には意思決定の理由やスピード感が異なります。例えば、直感派の上司が出す抽象的な指示の目的、意味を分析派はうまく理解できないなど、その違いを知らないことで、うまくコミュニケーションが図れないケースがあります。
図:ディシジョン・マトリクス 各タイプの傾向早見表 (引用:研修資料)
まずは自分自身の価値観を知るべく、それぞれ診断を行いました。みんなでの話し合い、管理者・中間管理職の約7割は協調派という結果に。協調派は、穏やかな雰囲気を好み、想いを理解をしてくれると安心な傾向があります。講師によると、福祉業界には協調派が多いのだとか!たしかに納得できる気がします^^
■面談の重要性
そのような性質を知ったうえで、関係性を向上させるには、対話することが必要不可欠です。その機会として、各事業所での定期的な面談が重要なものになります。似たような言葉で面接もありますが、面接は、参加者に上下関係があり、合格者を決めるために行うものであるのに対し、面談は、立場の優劣は関係なく、お互いを理解するために双方の意見を述べあうものです。面談を通して対話を積み重ねることが、職員のモチベーションを向上させ、個の成長の促進、組織活性化に繋がります。面談の時間に重きを置くためにも、上司は自身のセルフケアを行い、時間と心に余裕をもって、部下が相談しやすい環境をつくっておくことが重要だということです。
現状としては、面談を定期的に実施できていない事業所がほとんど。部下の趣味や好きなこと(セルフケア)を知っていますか?という問いに対して、皆さん首をかしげる様子…。後日、各事業所にて、まずは職員1人ひとりのセルフケアを尋ねることを目的に面談を実施しました。毎日一緒に働く仲間でも知らないことがたくさんあり、新たな発見の場となったようです。
その他、自分を知るべく、レゴにもチャレンジ。今の気持ちをレゴで表すと?という課題から、理想とする福祉施設とは?をテーマに作品をつくってみました。形状にどんな意味が込められているのか、今の施設と似ている点・違う点などを探るなかで、自分の目指す福祉像が自然と言語化されていくような時間となりました。
承認力
■承認の意義
あり方の受容を学んだ後は、承認力について。なぜエンゲージメント向上に承認力が必要なのか?人は生まれながらに認められたいという承認欲求をもっており、自分には価値があると実感したい生き物だという事実があるからだそうです。
自分では気づかない優れた部分を他者から伝えてもらうことで、1人ひとりが自分の強みを自覚し、内発的モチベーション(自分の心の底から湧き上がる動機)の向上や良好な人間関係に繋がり、組織全体の質が高まっていくとのこと。マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱した組織の成功循環モデルでは、良好な人間関係(関係の質)を形成することが、思考の質を高め、行動の質、結果の質も高まるといわれていますが、好循環を生むための起点として「承認」することが欠かせないといいます。
図:組織の成功循環モデル (参考:研修資料)
■承認を体感してみよう
承認を体感しよう!ということで、デライト式承認カードを使ったワークショップを行いました。承認カードとは、「言葉によって認めたりほめたりすることによって、最も承認の効果を得られるであろう項目を厳選・体系化し、50枚のカードにして見える化したもの」です。
引用:デライトコンサルティング株式会社「承認カード」
上級・中級・初級のレベルと存在承認、行動承認、結果承認の3種類があります。例えば存在承認でいえば、「初級:ワクワク感を伝える」「中級:目標達成を伝える」「上級:成長の過程を与える」などの項目があります。
これらを踏まえて、ケーススタディとして、「入社して2年目の職員が社内勉強会の企画立案、運営を任され、関係者を巻き込みながら無事開催に至ったときに、どんな声かけをするべきか?」というお題について、承認カードを用いてメッセージを考えました。
また、自分がどんなふうに承認してほしいのか?を承認カードを用いてピックアップしてみると、それぞれ認められて嬉しいポイントが異なることがわかりました。それ共有したうえで、ペアごとに承認し合うロールプレイングゲームも。どこか恥ずかしくなりながらも、承認されるのはこんなに気持ち良いことなのか!と、承認することの意義を体感できる研修となりました。
まとめ
今回は組織活性化に向けた取り組みとして、4、5月に行ったエンゲージメント向上研修の内容・様子の一部をご紹介しました。
日々利用者さんと関わるなかで、固定概念にとらわれない考え方や行動に学ばされることも多い一方で、組織運営という点で、職員それぞれの価値観の違いを大きく意識したことはあまりなかったかもしれません。今一度、ともに働く仲間の価値観を深堀りし、1人ひとりの強みを引き出すことで、事業所の質を高め、法人のビジョン達成に近づいていければと思っています。