障がい者支援施設で働く理学療法士のリアル

本記事では、悠久会で働く仲間の言葉を通じて、悠久会が島原にとって、そして社会にとってどのような役割を担っているのかご紹介します。

今回は、障がい者支援施設「若菜寮」で唯一の理学療法士・本田さんに、障がい分野で働く理学療法士の役割ややりがい、重要性についてお話を伺いました。

本田さんは、かつて病院で約5年間にわたって回復期のリハビリに携わってきました。転職を考えた際に、障がい分野における理学療法士の役割を強く感じ、未経験の世界へ飛び込み、ゼロから学び直しながら若菜寮でのリハビリテーションを創り上げています。

「正解がひとつではないからこそ、自分の頭で考え続けたい」と語る本田さん。

福祉の現場で働く魅力、そして障がい分野での理学療法士のあり方について、本田さんにお話を伺いました。

病院での臨床経験を経て、障がい分野へ挑戦した背景

ーまずは、病院を退職後、悠久会に入職された理由を教えてください。

本田さん:5年間回復期で理学療法士としてリハビリテーションに従事し、病院を出て次のステップを踏み出したいなと考えていました。転職先を探している際に、やはり病院の選択肢が圧倒的に多い中、悠久会で理学療法士を募集しているという求人を見つけました。当時は障がい者支援施設で理学療法士が働くイメージが全くというほどありませんでした。自分にとってのチャレンジでもありましたし、数が少ないならやってみる価値があるかなと思い悠久会への就職を決めました。

ー実際に働いてみて、障がい分野での理学療法士が関わる可能性を感じましたか?

本田さん:需要があるかは分かりませんが、障がい分野でもできることはあると感じています。まだ理学療法士としての提供価値が明確に伝えられる段階ではない一方で、理学療法士が働けるのは病院だけではなく開拓の余地はあると思います。

入職した当初は、何をしたらいいのかわからないことだらけでしたが、施設内での利用者さんの日常生活を観察しているとそもそも活動量が少ないという課題が見えてきました。障がいを持っている方も高齢化していくとフレイルや病気にもなりやすいため、改善の余地はあると感じました。

リハビリテーションにおける障がい者支援施設と病院との違い

ー現在の仕事内容と障がい分野と病院での違いを教えてください。

本田さん:現在は、若菜寮で理学療法士として勤務しています。回復期病院のリハビリテーションと異なり、入所されている利用者さんの生活の中でリハビリテーションを行うため、より生活に密着した関わりが求められます。障がいの程度もそれぞれですし、これまでリハビリテーションの文化がなかったため、自分で1から評価をし、できることから始めました。病院に入院されている高齢者の方々とは異なり、年齢は60代と若くても理解力や指示が入らない人がほとんどです。これまでのリハビリテーションや評価方法をそのまま実施することは難しいです。

一般的なリハビリテーションは、コミュニケーションを通して自主的に動作を促すことができますが、知的障害によりコミュニケーションが取れないため、最初は自立度の高い方から日々の生活動作の中に歩行訓練など運動習慣を身につけていただくようにしています。これは利用者さんだけでなく、働く職員にとっても理学療法士やリハビリテーションの目的ややり方を浸透していく機会でもあるので、戸惑いながらもやりがいを感じて取り組んでいます。

ー具体的にはどのように介入されているのですか?

本田さん:病院のように「リハビリテーションの時間だからこれをしましょう」はほとんど通用しません。そのため、なるべくこれまでの生活動作にいかにリハビリテーションの要素を入れるかに注力してきました。例えば、統合失調症の方で歩くリハビリを拒否されている方も、掃除を丁寧にされていたため、本来は職員がやるようなシーツ交換や布団畳みなどなるべくできることは自分でしていただくようにしました。それだけでも本人の活動量とできることが増えていくので、機能が向上するよりも現状をどれだけ維持できるかという点では効果的だと捉えています。

また徐々に私は「運動する人」という認識を持っていただけるようになると、ご本人のタイミングで「運動しよう」と声をかけてくれる方もいます。精神障害や知的障害を持っていると、こちらが計画したスケジュールで動くことはできません。そのため、施設内を歩きながらできそうな方から介入するというのも病院と異なる特徴かと思います。利用者さん主体でできるのは病院時代に感じていた「やらせないといけない」という葛藤がないので本人の意思を尊重できる点はとてもいいですね。

他職種との連携・リハビリ文化を創るために

ーリハビリテーションの文化がない環境でどのように浸透させていきましたか?

本田さん:病院ではどの職種もある程度、リハビリテーションに対する理解度がありますが、障がい者支援施設でずっと働かれている方にとってはイメージしづらいです。理学療法士は何するの?と思われていた方も少なくないと思います。最初の頃は共通言語を持つことも難しかったため、利用者さんひとりひとりの特徴や理学療法士の視点で評価したことを介護士さんたちに伝えていきました。介助する時の工夫や自分でできること、また定期的に体操の時間を作っていただくようにお願いしたりと細かいコミュニケーションを意識していました。

今では毎朝、介護士さんたちがラジオ体操をしてくださったり、みんなで歩く時間を作っていただけるようになり、個人的に腰痛の相談をしてくださる方もいます。徐々に、理学療法士は「身体の専門家」と知っていただけてるのかなと感じています。

施設内の勉強会でも、骨折・転倒予防を始め腰痛予防や移乗介助の方法などを取り入れた研修をしています。若菜寮の職員さんたちは、伝えたことはとても協力的に取り組んでくださるので徐々に馴染んできているのかなと。

ー他職種との連携について教えてください。

本田さん:週2回、外部の言語聴覚士の方に嚥下評価や口腔ケアなどを行っていただいています。リハビリ専門職として同じ目線に立って会話ができるので、食事形態や気になることなど相談させていただき、とても助かっています。

特に良かったケースとして、嚥下機能が低下している利用者さんの食事形態を刻み食にした際に「これは俺の飯じゃない」と拒否されてしまったことがあります。これまでの当たり前を変えることは本当に難しいため、対応としては、勢いよく食べて喉に詰まらないように小さいスプーンに変えたり環境設定を変えたり、試行錯誤しました。何が合うかはわからないので、相談しながら対応を変えていくことができたのは言語聴覚士さんに相談できる影響は大きいと感じました。

障がい者支援施設で働く魅力

ー病院とは全く異なる環境ですが、やりがいを感じることはありますか?

本田さん:毎日がやりがいだと思います。これは特別なことではないですが、大きくは二つあります。一つは、「利用者さん主体」でできることです。病院では決められた単位数とスケジュールでこちら側の都合で全て動きます。本人は「今日はやりたくないな」と思っていてもやらなければお互いに怒られます。障がい者支援施設では、本人の意思を尊重して「今日はお休み」の選択肢が持てることがいいところです。

二つ目は、「毎日の小さな変化が見えること」です。回復期病院で働いていた時は、身体機能の回復過程を強く実感することができました。一方で障がい者の方々はリハビリテーションによる機能向上は目的ではなく、変化が見えづらいです。ですが、毎朝施設内を回ると顔色や表情、行動など日々のちょっとした変化がとても人間味を感じられ、「今日のこの人」を主語にできるため、常に頭で考え様子を見ながら関われることがやりがいだと感じています。

プライベートでは「スポーツを通じて地域の高齢者との交流や健康維持に取り組みたい」と話す伊達さん。悠久会で培った知識と経験を生かし、福祉の力で地元の島原を盛り上げていく。

本田さんのお話を通じて、障がい分野における理学療法士の役割が、単に身体機能の回復を目指すものではなく、「その人らしく日々を過ごす」ための支えであることを、あらためて感じました。若菜寮での取り組みは、利用者さん一人ひとりに向き合い、共に歩むことの大切さを教えてくれます。

これからも、福祉の現場における理学療法士の可能性や、多職種で支え合うケアのかたちを発信してまいります。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

Sustainable Development Goals

悠久会は、持続可能な開発目標(SDGs)を推進しています。