地域経済の視点から福祉の道へ歩んだ、今とこれから

今回は、新卒入社から3年目を迎え、就労継続支援B型事業所『花ぞのパン工房』で支援スタッフとして働く古賀さんに、福祉の道を選んだ理由や働く中で感じてきたこと、考えていることについてお話を伺いました。

古賀さんは、地域経済を学ぶ中で障がいのある方々が働くことの難しさなど福祉の課題に関心を持ち悠久会への就職をされました。現在は現場の仕事を幅広く経験しながら、地域活動や仕組みづくりなど全体像を設計できるように試行錯誤しながら取り組んでいます。

福祉の道へ歩まれた古賀さんの等身大な心境や考え方に注目いただき、将来への選択に迷っている方がいたら参考にしていただけることがあるのではないでしょうか。

利用者さんと向き合い、自分の思考と向き合う

現在の業務内容を教えてください。

まずは現場を学ぶことから始めるために、現在は就労継続支援B型事業所『花ぞのパン工房』の支援スタッフとして働いています。

主な業務はパンの製造と販売です。それに加えて、「施設外就労」として島原の野菜卸売会社から委託された袋詰め作業の引率や、季節によってはイチゴの収穫・箱詰めなど、地域の依頼に応じた農作業のサポートにも携わっています。合間を見ては、販売戦略や今後の売上計画についても考えるなど、多岐にわたる業務に携わっています。

働き始めた当初、率直に感じたことを教えてください。

最初は利用者さんに対して行っていただく作業の指示を伝えたり、利用者さん一人ひとりとのコミュニケーションの取り方に戸惑うことも多くありました。そうした場面では、他の職員の対応を観察し、自分でも実際に話しかけてみて、うまくいかなかった経験から「この人にはこういう伝え方が合うんだな」と気づき、次に活かしていくという試行錯誤を繰り返していました。

特に、年上の利用者さんに対して指示を出すことには違和感があり、自信が持てない時期もありました。そんなとき、尊敬している上司から「あなたにしか築けない関係性があるんじゃない?」という言葉をもらい、自分なりの関わり方を模索するようになりました。

机上の学び以上に、現場で学ぶことが多いと思いますが慣れていくために工夫したことはありますか

日々の業務の中では、「ケース記録」として客観的な出来事を記録していますが、それとは別に、自分の内面や気づき、試行錯誤を記録する“主観的なメモ”も書いていました。「なぜこの人はこういう行動をしたのだろう?」と考えたり、過去の経験が影響しているのではないかと仮説を立ててみたりすることもあります。

1年目のころは、利用者さんの気分や状態に引っ張られて、自分自身も落ち込んでしまうことがよくありました。だからこそ、「自分がどう受け止めたか」「どんな感情が湧いたか」といった自身の内面も含めて書き留めるようにしていました。

利用者さんとのやりとりは、とても面白くて、予測不能な返答が返ってきたり、時には人生を達観したようなコメントがあったり、場が和むような存在の方もいます。就労支援としては、できることを増やすための訓練が必要ですが、人としての魅力はまた別のところにあると感じています。そうした部分を、もっと多くの人に伝えたいという気持ちが強くあり、自分のために残してきた記録が、いつか業務として見えることではなく、利用者さんの個性が見えるような福祉の魅力を伝えるきっかけになったらいいなと思っています。

きっかけは障がいにより「働けない」ことへの違和感

いつから福祉に興味を抱いたのですか?

もともと大学では「地域経済」のゼミに所属しており、福祉とは異なる分野を学んでいました。高校時代を福岡県の久留米市で過ごし、田舎が好きだった私は「この地域が残ってほしい」という思いを持っていました。そんな背景もあり「地方創生」が注目され始めたタイミングも相まって「地域」への関心が高まっていきました。

ゼミでは地域商店街の活性化や、地域内での消費の促進をテーマに活動していました。地域でお金が循環することの大切さや、誰がどのように物を作っているのかが見える消費の価値を学ぶ中で、長崎の雑貨店で見かけた「就労支援施設で作られた商品」を思い出しました。それをきっかけに、就労支援の仕組みに興味を持ち始めたのです。

調べるうちに、工賃の低さや生産活動と福祉の両立の難しさ、職員の負担など多くの課題が見えてきました。さらに、社会の仕組みにより障がいがあることで働けない場合は多く、「働けない」ということで生活の選択肢が制限されることに、強く違和感を覚えたのです。また私の家族は難病を抱えており、思うように働けない姿を近くで見てきたこともあり福祉の課題がより自分ごととして捉えられるようになりました。

地域経済とソーシャルビジネスを学び、「就労支援」というテーマに自然と関心が向かっていきました。地域を元気にするとは、人口が増えることや企業が進出することだけではなく、一人ひとりが「自分の人生を全うできているか」が大切だと思っています。それから福祉の分野で自分にできることがないか探すようになりました。

地域経済を学んだ古賀さんが考える「福祉」と「まちづくり」についてどのように考えていますか?

私にとって、「福祉=しあわせ(well-being)」であり、人が幸せに暮らせる社会をつくることは、まちづくりと同義です。支援や制度だけでなく、社会全体が人にやさしくなる仕組みが必要であり、それを追求することが地域の活性化にもつながると信じています。

障がいを抱えていても働けるかどうかはとても大切ですが、それ以上に「人とつながっていられること」の大切さを実感しました。支援があれば社会とつながる可能性は広がりますが、人と関係性を築くには時間がかかりますし、適切なタイミングを逃すと意欲が低下したり、スタートを切ることが難しくなることもあります。だからこそ、障がいを抱える人や社会参加への壁を感じている人が社会参加を諦める前に、支援が届くことが重要だと感じています。

私は、社会で見過ごされてしまう人への違和感や、社会の冷たさに対してあらがいたいという思いがあります。それだけを伝えると「正義感が強い・意識が高い」と言われることもありますが、私は周りにいる方々にたくさん助けてもらいながらなんとか生きてきました。人と向き合うことで、自分と向き合う時間も増え、しんどいなと思うこともたくさんあります。ですが、弱い自分も足りないところもお互いに補い合って、ともにしあわせに生きられる世界線を探していくことが、福祉の視点を持ち合わせた自分のあり方なのかなと。まちづくりと福祉の境目は本来グラデーションになっており、私は自分自身が気になる人たちのwell-beingがどうしたら作れるのか色んな方向から捉えられるようになりたいと考えています。

原点に立ち返り、目の前にいる人の力へ

福祉に関わることで見えてきた自分の価値観はありますか?

「働くこと」は、社会に参加する手段の一つですが、それがすべてではありません。福祉を知っていく中で、むしろ、働くことができなくても、誰かとつながっていること、社会に自分の居場所があることのほうが、より豊かさにつながるのではないかと考えるようになりました。

利用者さんとの関わりを通して、自分の常識を超えるような言葉や視点に出会い、「当たり前」が揺さぶられる瞬間があります。そうした多様なあり方を「面白い」「素敵だな」と思える自分の価値観を、大切にしていきたいと思っています。

もともと小さい頃から、みんなが「正解」と言っていることに対して「本当にそうかな?」と感じることが多かったです。中学校のクラスには支援学級の子や家庭環境が複雑な子、不登校気味の子もいて、さまざまな背景を持った子たちと自然に関わっていました。

特に印象に残っているのが、理科に詳しい支援学級の男の子で、実験の時にはその子が先生のような存在になっていました。その姿を見て、「得意なことが誰かの役に立つ」ということを子どもながらに感じることができ、そうした友達が周りにいたことが、私の価値観の原点になっているのだろうと思います。

だからこそ、花ぞのパン工房で関わる利用者さんひとりひとりも、「利用者」である前に、「目の前にいる人」として見ることで個性や魅力を発見したいと考えられるのかもしれないです。

古賀さんがこれから目指すことを教えてください。

支援者と利用者という関係性ではなく、ただの人としてつながれる場所や仕組みに関心があります。たとえば、障害の有無に関わらず、困ったときにふらっと立ち寄れる“居場所”のような空間は身近に必要だと思っています。

障害の有無にかかわらず、社会に違和感や壁を感じる人たちに寄り添える人になりたいです。その壁は、制度や環境といった外的なものもあれば、内面的な不安やトラウマといったものもあります。就労支援だけにとらわれず、ハード面・ソフト面の両方にアプローチしながら、困っている方に生きやすさを届けていきたいと考えています。

まだまだ現場で学びたいことはたくさんありますが、今後は現場にも関わり続けつつ、社会や組織の仕組みや未来のイメージを“描く側”として関われるように成長していきたいです。そして私自身も、やりがいをもって働き続けていきたいと思います。

Sustainable Development Goals

悠久会は、持続可能な開発目標(SDGs)を推進しています。